西日本新聞電子版 1周年記念プレゼント

自分を守る「再出発」 【第18部】 転職という選択<4>

「営業職」や「福岡県」など職種や勤務地の希望を入力して、転職サイトで条件に合う求人を見つける
「営業職」や「福岡県」など職種や勤務地の希望を入力して、転職サイトで条件に合う求人を見つける
写真を見る
写真を見る

 午前0時36分の終電より早く帰れる日はほぼなかった。福岡に本社を置く商社の東京支社に勤めていたころ、社宅に戻る車内には、沿線の「ディズニーリゾート」で遅くまで遊んで帰る人がいつもいて、キャラクターのかぶり物を身に着け、楽しそうに笑う姿をただ眺めていた。

 帰宅して缶ビールを1本。すぐに酔いが回って布団に入ると4時間後には起き出し、6時半にはまた会社にいる。毎朝自分の机をきれいに拭き上げた。それが長い一日を乗り切る「おまじない」だったから。

 中山達哉さん(34)=仮名=が24歳で入った会社は、過酷な労働を強いる典型的な「ブラック企業」だった。社員の平均年齢は20代後半で、毎年新卒を20人ほど採用しても、同じだけ辞めていくから慢性的に人手が足りない。担当は営業なのに、経理や検品の仕事まで回ってくる。

 数台売るのも大変なソファを「30さばくまで帰ってくるな」と言われ外回りを続ける。家具店では、よその社のソファをこっそり隅に寄せ「ここにうちのも置いてください」と頭を下げる。心がすり減っていった。

 ある日、得意先に屋外用大型パラソルを持ち込んだ。製造元と交渉し、顧客の要望を取り入れ改良した思い入れのある商品。「そんなのいいから、値段下げて」。担当者の冷ややかな声で、プツンと糸が切れた。

 「もう少し遅かったら心が壊れていたかも」。4年前、退職願を出し、地元福岡で職探しを始めた。今考えれば残業は月200時間を超えていた。年収は330万円ほどだった。

   □    □

 連合のシンクタンク「連合総研」の調査(2016年)では、民間企業に勤める2千人の4人に1人(24・6%)が、自分の勤務先をブラック企業と思うと回答した。うち約67%は「すぐにでも」「いずれは」転職したいと答えている。来春卒業予定の大学生が働き方について一番気にしている点は「長時間労働やサービス残業があるか」(59・9%)という別の調査結果もある。

 日本では長時間労働をいとわない企業体質が長く放置されてきた。しかし新入社員の過労自殺に端を発した電通の違法残業事件などをきっかけに「やはり長時間労働はおかしい」という意識が社会に広がっている。

 安倍政権も「働き方改革」を加速させ、残業の上限時間を初めて明記した労働基準法の改正案は今月下旬からの臨時国会に提出される見通しとなった。それでも改正法の施行は19年4月と見込まれ、目の前に問題を抱える人にとって、即効性のある解決策の一つは「自分を守る」転職になる。

   □    □

 高校時代、50メートル5秒8の俊足を生かし、強豪校のラグビー部でウイングのレギュラーだった中山さんの信条は「努力は裏切らない」。「途中で投げ出すのは『根性なし』だと思っていた」と振り返る。

 理不尽な労働環境でも、辛抱を続ける人は一定数存在する。非正規雇用が増える世の中で「正社員の今」を手放すのは覚悟もいる。この問題に詳しいNPO法人「POSSE」(東京)代表の今野晴貴さんは「失業保険はすぐにもらえるわけではなく、失業状態への恐怖が決断を難しくしている面もある」と制度上の問題も指摘する。

 中山さんは退社3カ月後に今の住宅設備会社に転職できた。残業はしてもせいぜい1時間。営業成績は好調で、年収は3割増えた。体調もいい。「悩んでいる人は胸を張って辞めて。逃げじゃない、再出発だから」


=2017/09/15付 西日本新聞朝刊=

→電子版1周年記念!1万円分賞品券やQUOカードが当たる!!

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]