フォーク編<404>永井龍雲(7)

太宰治の小説が好きだった龍雲
太宰治の小説が好きだった龍雲
写真を見る

 永井龍雲のアルバム「風樹」(2004年)に収録されている「青春の街」には福岡時代の心象風景が色濃く映し出されている。

 〈中洲・那珂川 夕暮れ時は ネオンが水面に滲(にじ)む 路上で唄(うた)う 若者たちに あの日の自分を重ね ふと涙ぐむ…〉

 〈天神ぬけて 城跡めぐり 大濠公園辺り 手も繋(つな)げずに 拙い恋は 惨めな気持ちに振られ ふと苦(にが)笑う…〉

 龍雲は歌詞にあるように実際には福岡の路上、ストリートで歌ったことはない。ただ、音楽への道を夢見る若者たちに〈あの日の自分を重ね〉ている。

 龍雲は福岡市で今年11月に開いたコンサートの中で、六本松、別府、天神近くで下宿していたことを話している。コンサート前に散歩した新天町を「懐かしかった」と語った。というのも、龍雲は新天町の喫茶店「サン・フカヤ」、そば屋「飛(とび)うめ」でアルバイトをしたことがあった。働きながら共同トイレの小さな下宿部屋で、曲作りをしていた。

 「どんな所でも曲作りはできる。そんな原点を忘れないようにしたい」

 このコンサートで、自らへ確認するように、問いかけるようにつぶやいた。

   ×    ×

 福岡時代に作った曲に「星月夜」と「桜桃忌-おもいみだれて」がある。

 〈…お下げの時母さんと植えた 紫蘇(しそ)の葉が風に包まれ匂(にお)ってくる 子供時分に戻りたい もう一度やりなおせる あの頃に 涙で曇る夜空に 母さん星が笑う…〉(星月夜) 

 〈…帰らない青春と ともに戻らぬ人 いつもならば 忘れているのに 思い出す 桜桃忌…本棚の片隅に 貴方(あなた)から借りた太宰 徒(いたず)らに頁(ページ)を捲(めく)れば 拙い走り書き…〉(桜桃忌)

 龍雲が作家、太宰治の小説を読み始めるのは豊津高校3年生の後半ごろからだ。

 「『人間失格』が一番、好きな作品でした」

 桜桃忌は自殺した太宰をしのぶ文学忌である。太宰文学について龍雲はこのように言った。

 「悲しみや孤独感など負の感情を表現している」

 龍雲が17歳のときに、母親が他界した。故郷を離れた一因でもある。この喪失感から太宰文学に接近したのも確かだ。母だけでなく、15歳で急逝した親友や故郷、そして過ぎゆく時代…。こういった喪失感が龍雲の世界の魅力的なトーンの一つになっている。曲調でもまさに、福岡は龍雲の原点だった。 =敬称略

 (田代俊一郎)

=2018/12/10付 西日本新聞夕刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]