「ハチドリ隊」 今年もベトナムで植林 「希望」植え10年

汗と泥にまみれて植林した隊員たち
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ぬかるみに足を取られながら懸命に植林に取り組む隊員たち
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手袋を着け、仲間とリレー方式で林の中の植林地へ苗木を運ぶ
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「クチトンネル」で内部に入る様子を見学する隊員たち
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 ●苗木420本 中高生ら20人参加 心震える体験 自然の生命力感じた

 海外での植林活動を通じて中高生に環境や平和について理解を深めてもらおうと、西日本新聞社は「第10回西日本新聞ハチドリ隊」を8月8日から5日間、ベトナム・ホーチミンに派遣した。福岡県と佐賀県在住の18人と参加経験がある大学生2人の計20人が、1960年から15年間続いたベトナム戦争により、マングローブの林が壊滅したカンザー地区で苗木420本を植えた。隊員らの現地での活動の様子を紹介する。

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 植林した場所の地面は水気が多く、隊員は苗木を植える穴を掘るのに汗まみれになって苦闘した。小田雪乃隊員(福岡・西陵中1年)は「掘るとスコップに土が張り付き、重くて動かしづらくなる。穴にたまった水で何度も土を洗い落とした」と振り返る。

 隊員たちの動きは最初はぎこちなかったが、やがて「掘る」「苗木を入れる」「土をかぶせる」というリズムが作業に生まれ、上手に植えられるようになった。別のグループが以前に植林したが、苗木が根付かなかった場所に別の品種を植えながら「今度は立派に成長しますように」と願った。

 ベトナム戦争で米軍がまいた枯れ葉剤によって、カンザー地区のマングローブの森は失われた。作業を終えて展望台から地区を見下ろすと、住民による粘り強い植林で復活した森が広がっていた。自然の生命力を感じた小田隊員は「もう二度と人間には支配されないぞ」という森の声が聞こえたような気がした。

 ■残る戦争の傷痕

 市内には米軍の爆撃から身を守るために掘られた「クチトンネル」が戦跡として保存されている。黒田いおり隊員(福岡・輝翔館中教校2年)は狭いトンネルの中に入って驚いた。通路の奥に、住居や会議室、病院などの施設が造られていた。黒田隊員は「ベトナムの人々がトンネルに潜んで生活を続け、平和な暮らしを取り戻すため戦っていた」ことを知った。

 べトナム戦争の惨禍を紹介する戦争証跡博物館にも行った。横尾すみれ隊員(福岡・修猷館高1年)は、目の前で親が殺されようとしている姿を見ている3人の子どもの写真に衝撃を受けた。横尾隊員は「子どもたちの表情は言葉では言い表せない恐怖や悲しみで覆われていた。無差別殺りくの残酷さを感じた」

 ■両国の友好に貢献

 ハチドリ隊は現地の学生との交流も活動の大きな柱にしている。今回はホンバン国際大学日本語学科の4人が植林作業に参加した。3年生のルー・グエン・ホアイ・リンさんは「大変な作業で疲れたが、隊に参加したことで戦争や環境のことをあらためて学んだ。隊の活動をこれからも続けてほしい」と話した。

 長年、現地で植林に取り組み、隊員に作業を指導してきた浅野哲美さん(55)は「中高生が重労働である植林を体験し、現地の学生と汗を流してきたことは、両国の友好に大きく貢献している」と評価した。

 ●ハチドリ隊員の声

 ▼加藤大河さん(早稲田佐賀中1年) 戦後の日本のような急成長が続くベトナム。現地の大学生や働いている人たちの目は希望にあふれ、今の日本人とは違う輝きを感じた。

 ▼川端樂翔さん(東福岡高1年) マングローブ林を回復させたベトナムの人たちの並外れた根気に心を打たれた。ハチドリ隊の活動が自然やベトナムのためになったと思うと誇らしい。

 ▼河塚彩和さん(福岡女学院高1年) ひょろ長い苗木は、生命力に満ちていた。人間は命を救うことも奪うこともできると胸に刻み、命の大切さを発信したい。

 ▼宜野座由豊さん(福岡県・遠賀町立遠賀中1年) ベトナム戦争で全滅したマングローブ林の写真を見た。自分たちが植林した場所の近くだったので、こんなに被害が大きかったのかと驚いた。

 ▼白石百奈さん(福岡県・北九州市立黒崎中2年) ベトナムの歴史を学んだ。戦争の残酷な事実。失われたものを取り戻す困難さ。自然と平和の大切さなどたくさんのことを考えた。

 ▼白土和香奈さん(福岡県・筑紫女学園中2年) マングローブの植林活動で、役に立てたことにやりがいを感じた。自然の大切さ、戦争の恐ろしさを自分の目で見て、実感できた。

 ▼財部深月さん(福岡雙葉中3年) 私たちが植えた苗木が、いずれ森の一部になると考えると、1人でできることは小さくても、決してゼロではないということを身をもって学んだ。

 ▼谷川旦誼さん(早稲田佐賀高2年) マングローブ林を前にして、人と環境を壊す戦争は、無意味で何も生み出さない愚かな行為であることを、私たちが伝えていく責任を感じた。

 ▼谷川あさひさん(佐賀県・成穎中2年) 枯れ葉剤で多くの被害があったのは、非常に悲しいことだ。今なお、世界各地で戦争や内戦が繰り返されていることを疑問に思う。

 ▼谷口汐音さん(福岡県・嘉麻市立嘉穂中3年) ぬかるんだ土に足を取られながらも、無我夢中で植えた。苗木が成長し、森の一部になることを考えると心が震える体験となった。

 ▼林原隆誠さん(早稲田佐賀中1年) ホーチミン市内は人々の笑顔であふれていた。しかし、枯れ葉剤の影響を考えると、ベトナム戦争は、まだ終わっていないと感じた。

 ▼福澤優里さん(福岡県立筑紫丘高1年) 10代のうちに海外に行ってみたかった。ベトナムでの植林活動は大変な作業だったが、この貴重な体験が私にとって今後、大きな力になると感じた。

 ▼宮崎優希さん(福岡県立筑紫丘高1年) 私にとって未知の国・ベトナム。平和学習や植林を通して、人間の強さ、自然の力を知り、地球の住人であることを改めて実感した。

 ▼森田芽依さん(福岡県立城南高2年) 戦争体験者の講話では、自国のために戦う気持ちの強さや、みんなで支え合って苦難を乗り越えたというベトナム人の強さに感動した。

 ▼吉田亜矢さん(福岡県立輝翔館中教校5年) 見渡す限り広がる木々。夢ではなく現実なのだ。植林体験をしたからこそ、現地の住民が森を復活させたことへの感動は忘れられない。

 ◇ ◇

 このほか隊員経験がある河野共喜さん(大分県・別府大)と下田真里奈さん(福岡県・産業医科大)も参加した。

 ●わキャッタ!メモ

 ▼西日本新聞ハチドリ隊 2008年に派遣を開始し、中国・内モンゴル自治区のクブチ砂漠で12年まで植林した。13年からはベトナムで、ベトナム航空、九州ベトナム友好協会(福岡市)などの協力を受けて活動している。これまでに九州在住の中高生173人が参加し、5170本の苗木を植えた。隊名はハチドリが森林火災を消そうと、くちばしで水を運んだという南米アンデスの伝説にちなむ。

 ●事務局から

 ▼苗木と隊員の成長を実感

 ハチドリ隊では帰国の日に、隊員たちが参加した動機や植林の感想、今後の夢を発表し合う時間を設けている。お互いの言葉に刺激を受け、自分を見つめ直すいい機会になっているようだ。初対面の中高生らが環境のために何かをしたいという同じ志を胸に、活動を通じて「仲間」になる。隊員を引率して3回目になるが、私自身、その光景にやりがいを感じている。

 今回、作業の合間を見て浅野さんと2年前に植林した場所を訪れた。苗木は10倍以上の葉を付け、白い花を咲かせていた。植林で隊員が流した汗のしずくが、マングローブの苗木を根付かせたと実感し、森が元に戻る希望が見えた。植林した隊員とともに、この木がどこまで育っていくのか。これからが楽しみだ。

(こどもふれあい本部・洲之内順三)

【紙面PDF】「ハチドリ隊」 今年もベトナムで植林 「希望」植え10年

=2018/10/18付 西日本新聞朝刊=

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