【きょうのテーマ】難民キャンプ医療支援活動 熊本赤十字病院 村上拓医師の体験に学ぶ

難民キャンプでの医療支援について、こども記者たちと語り合う村上先生
難民キャンプでの医療支援について、こども記者たちと語り合う村上先生
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村上先生の話を真剣な表情で聞くこども記者
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 ●救えぬ命もある。それでも… ロヒンギャ難民助けたい

 「難民」って聞いたことがありますか? 戦争や民族紛争、自然災害などで、ふるさとの国を追われた人々です。東南アジアのミャンマーでは、イスラム教を信じる少数民族・ロヒンギャが隣国、バングラデシュに逃げました。彼らが生活する難民キャンプで活動した熊本赤十字病院の医師村上拓先生(32)を招き、こども記者たちがワークショップで学びました。

【紙面PDF】きょうのテーマ 難民キャンプ医療支援活動

 ワークショップは10月20日、福岡市の西日本新聞社にこども記者や保護者ら43人が集まって開かれた。

 村上先生は白衣を着て、優しそうな笑顔で登場した。普段は熊本市の病院で、子どもを診療する小児科で働いているそうだ。2017年11月から約2カ月、日本赤十字社の医療チームの一人として、バングラデシュ南東部・コックスバザールの難民キャンプで医療支援の活動をしたという。

 村上先生たちが難民キャンプ内の病院で診療した患者は約6千人。その多くが元気になったが、病院に来られなかったり、入院を嫌がったりして命を落とした人もいた。「どうして病院に行けないと思う?」。村上先生の問いかけに、こども記者からは「赤ちゃんを診てくれる病院が近くにない」「お金がない」「病院までの交通手段がない」などの意見が出た。村上先生は「どれも正解です。そのほかにも、文化の壁がありました」と説明した。

 かけつけたある家では、生まれたての双子の赤ちゃんが亡くなった。入院すれば助かる可能性があったが、ロヒンギャの文化で出産後1週間は女性が家から出られないという。日本だったら助かったかもしれない命だが、「現地では解決できないこともあった」。村上先生の悔しそうな表情を、こども記者たちはじっと見つめた。

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 「うれしいこともありました。たくさんの友達ができました」。村上先生は、さまざまな国の人たちが笑顔で仲良くしている写真もスクリーンに映し出した。医療チームには、日本人のほか、イタリア人やバングラデシュ人もいた。患者と会話するため、ロヒンギャ語と英語が話せる難民に診療の協力もしてもらった。

 とはいえ、同じ医療チームの仲間でも習慣や言葉、考え方は違う。医師や助産師、薬剤師など専門もばらばらだった。あるこども記者は「相手のしていることが分からないといらつくのでは」と考えた。実際、けんかもあったが、「みんなが違うからこそいろんな意見が出たし、僕ができないことも他の仲間が手伝ってくれた」と村上先生。「相手のことを正しく理解しようとすれば、時間はかかっても仲良くなれる」。こども記者たちは、その言葉を熱心にメモしていた。

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 ロヒンギャの人たちはさまざまな「違い」があって差別され、ふるさとから逃げてきた。だけど、村上先生が聴診器を当てると、心臓の音はみんなと同じ「ドックン、ドックン」。言葉や肌の色、宗教が違ってもみんなが笑うし、病気になって、元気になる。「同じ人間なんだ、と改めて気づくことができた」。医師だからこその実感だ。こども記者たちは医療や難民支援、人を助ける仕事の奥深さを感じたようだった。

 ●病気が広がりやすい環境 難民キャンプ

 ロヒンギャ難民支援には世界各地の多くの人が関わっている。UNHCRなどの発表によると、約130団体が医療や食料、教育などの支援をしている。日赤は昨年9月から今年11月上旬までに医師や看護師など134人を派遣し、今後も支援を続ける。

 村上拓先生によると、65万人以上が暮らすコックスバザールの難民キャンプには、ビニールシートを屋根にした家が並び、1軒に3家族15~30人が暮らしていた。人が多いだけでなく、トイレから出た汚水が飲み水をくむ井戸に流れこみ「病気がとても広がりやすい環境」だという。ジフテリアという病気は3週間で2千人が感染したという。

 村上先生のチームが診療した患者の半分は子どもで、予防接種をしたり、風邪やけがの治療をしたりした。生まれた時に土で汚れ、へそからばい菌が入った赤ちゃんもいた。キャンプはゾウがすんでいた森を切り開いてできたため、がけを通る道もあり、病院に来られない妊婦や病人の家を何度も往診したそうだ。

 治療や手術に必要な機械の操作が専門の技士もいた。手洗いや治療には清潔な水が不可欠なため、技士の指導で10トン入る水タンクを設置。技術を持つ難民の力も借り、竹や木材で簡単な病院を建てて電気も使えるようにした。

 ■世界の難民・避難民は6850万人

 世界にはどれだけの難民がいるのだろう。国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)の2017年の発表によると、ふるさとの国から他の国に逃げた「難民」と「国内避難民」などを合わせると、計6850万人に上る。日本の人口の約半分と同じだ。難民の出身国はミャンマーのほか、シリアや南スーダンなど。難民たちの多くがトルコやパキスタンなどで生活している。日本では昨年、約2万人が難民として生活したいと申し込んだが、認められたのは20人にとどまる。

 ●わキャッタ!メモ

 ▼ロヒンギャ ミャンマー西部ラカイン州を中心に暮らすイスラム教を信じる少数民族。人口の約9割が仏教を信じるミャンマーでは、政府がロヒンギャを自国の民族と認めていないため、差別や迫害の対象となってきた。昨年8月にロヒンギャ武装集団とミャンマーの治安部隊が衝突した事件をきっかけに、72万人以上(2018年8月現在)が難民としてバングラデシュに逃れた。「ロヒンギャ」という呼び名には民族や国籍などの問題があるため、国際赤十字では「バングラデシュ南部避難民」としている。

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=2018/11/15付 西日本新聞朝刊=

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