【きょうのテーマ】昔ながらの銭湯訪ねて 「荒戸湯」(福岡市中央区) 広い湯船は会話がはずむ

荒戸湯の外観。昭和元年に建てられたそうだ
荒戸湯の外観。昭和元年に建てられたそうだ
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銭湯の中を佐伯さん(右はし)に案内してもらった。中には富士山の絵もえがかれていた
銭湯の中を佐伯さん(右はし)に案内してもらった。中には富士山の絵もえがかれていた
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番台からお金を受け取る佐伯さん
番台からお金を受け取る佐伯さん
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家族といっしょに荒戸湯の風呂に入った
家族といっしょに荒戸湯の風呂に入った
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昔から使われているドライヤー
昔から使われているドライヤー
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湯上がりの牛乳は格別だ
湯上がりの牛乳は格別だ
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 ●昭和、平成…変わらぬ魅力

 家族も友だちも知らない人も、一つの湯船につかれば自然と言葉が交わされる-そんな不思議な空間、銭湯。たくさんのビルがたちならぶ福岡市中央区に、昭和の初めから平成が終わろうとする今まで、ずっと親しまれている銭湯「荒戸湯」がある。訪ねると、あったかい湯がわいていた。

【紙面PDF】昔ながらの銭湯訪ねて

 大濠公園の近く、ビルやマンションに囲まれた細い路地に「荒戸湯」はあった。時代劇に出てきそうな木造2階建ての建物に「ゆ」ののれん。映画の中に飛びこんだような気持ちになった。私たちになじみがあるスーパー銭湯とはちがい、建物の入り口から「男湯」「女湯」に分かれていた。

 扉を開けると、ここを切り盛りする主の佐伯登志子さん(78)が迎えてくれた。「ここはね、昭和元(1926)年に建てられたとよ」と、しゃきっとした話し方だ。入るとすぐに脱衣所で、扉の横には高い台があった。「番台」とよばれ、入浴料を受け取ったり見張りをしたりするために佐伯さんが座る台だ。屋内には古い映画のポスターや大相撲の番付表がはられていた。

 驚いたのが脱衣所にある椅子と大きな卵が一体化したような機械。年季が入っている。佐伯さんが「ドライヤーよ」と教えてくれた。卵のようなヘルメットに頭を入れれば、温風が出て髪がかわく仕組みだ。「肩が痛いというお年寄りには、手で持つドライヤーよりも重宝されとるよ」と笑う。使用料は3分20円で昔から変わらないそうだ。

 私たちは風呂をわかす「かま場」も特別に案内してもらった。油を燃料にしたボイラーは大きく、小窓をのぞくと炎がめらめらと赤く燃えていて迫力があった。50年ほど前までは石炭を燃やして湯をわかしていたそうだ。担当する「かまだきさん」も雇っていた。佐伯さんは「昔はえんとつが太く、銭湯の目印になっとった」。時代とともにえんとつは細くなり周りの高いビルにかくれ、街で目立たなくなった。

 最後に私たちは取材に同行した家族と、みんなで風呂に入った。はじめは知らない人と入るのは恥ずかしかったけれど、湯につかると自然に会話が始まった。これが銭湯の魅力だと感じた。風呂は温かく安らいだ。湯の温かさだけでなく、ここで何十年も変わらず、毎日2時間かけて風呂をみがく佐伯さんの姿が目にうかぶからだ。

 佐伯さんは「私が元気なかぎり(銭湯を)続けるって決めとる」と笑顔で言い、風呂上がりに飲む牛乳を私たちに手わたしてくれた。

 ●78歳・佐伯さん、今も番台に お客さんひきつける笑顔

 荒戸湯の魅力は、長年切り盛りする78歳の主、佐伯登志子さんの人柄にもある。

 お客さんは1日平均30~40人。大濠公園を走るランナーや近所の常連さんたちだ。顔なじみも多く、元気のない客には声をかける。仕事の失敗などを打ち明けられると、佐伯さんは「気にせんでいいと」とはげますそうだ。

 福岡市の玄界島で生まれた佐伯さんは、島の外の高校に入るのをきっかけに、当時、荒戸湯を営んでいたおばさんと暮らすことになった。高校から帰ると風呂の手伝いをし、当時から番台にも座った。番台からは男湯も女湯も見えるから「同級生の男の子が風呂に入りに来ると恥ずかしかった。裸を見んよう、ずっと下を向いとった」と笑う。

 高校卒業後も銭湯で働き続け、60年がすぎた。家庭に風呂がない時代には家族連れでにぎわった。近くの相撲部屋の宿舎から力士が訪れていたときには「お湯がすぐになくなった」と楽しそうにふり返る。「やめたいと思ったこと? この仕事しかしとらんけん、分からんよ」。私たちでも少し高く感じた番台へも、ひょいっと上る姿はとてもたくましかった。

 ●わキャッタ!メモ

 ▼荒戸湯 福岡市中央区荒戸3丁目。ランナーにはタオルや石けんを無料でかし出す。入浴料は12歳以上440円、小学生180円、未就学児70円。営業時間は午後4時半~10時。月曜定休。092(741)0047。

【紙面PDF】昔ながらの銭湯訪ねて

=2018/12/27付 西日本新聞朝刊=

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