ミツバチ異変 ネオニコ系農薬、危機感に溝 市民団体 「予防原則で使用禁止を」

巣箱に異変がないか確認する養蜂家の矢部勝さん
巣箱に異変がないか確認する養蜂家の矢部勝さん
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 「この3年ほど女王バチがおかしいと感じることがあるんです」

 福岡県久山町で養蜂業を営んで41年。県養蜂組合の前組合長でもある矢部勝さん(71)が振り返る。巣を離れた女王バチは通常、雄と交尾後に帰巣して産卵する。それが帰ってこなかったり産卵しなかったり、産卵しても無精卵ばかりだったり。「根拠はないけれど、これはネオニコチノイド系農薬のせいだと感じる」

 近年、国内外で報告が相次ぐミツバチの失跡や大量死の原因は、長年の経験からダニ、病気、そして農薬の複合要因だと確信している。中でも農薬の影響は大きいと思う。使用を控えるよう県などの関係者に要望してきたのもそのためだ。

 ネオニコチノイド系農薬はタバコに含まれるニコチンに似た物質を主要成分とする農薬の総称で、1990年代に登場し、殺虫剤などの用途で使われている。神経伝達物質アセチルコリン受容体に結合し、神経細胞を興奮させ続けて昆虫を死に至らせる。成分が根や葉などから吸収され作物全体に行き渡る浸透性、少量で高い効果が長期間続くことなどから普及した。

 ところが2000年代以降、欧米などでミツバチなどの群れから働きバチが突然いなくなり、群れが崩壊する異変が相次ぎ、神経毒のネオニコチノイド系農薬の影響が疑われている。欧州連合(EU)で食品の安全性などを評価する欧州食品安全機関(EFSA)は13年、うち3種類について使用を一部制限した。

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 ミツバチは果樹などの園芸作物の交配に欠かせない。日本の農林水産省も13年度から3年間、農薬が原因と疑われる大量死の事例を養蜂家に報告してもらう形で被害発生と農薬の関連を調べた。一部は死骸の検査もした。

 今年7月に公表した分析結果によると、全国からの報告数は13年度69件、14年度79件、15年度50件の計198件で、全国の巣箱数全体の0・7~0・8%に相当した。発生時期は7月中旬から9月中旬が8割。これは水稲の害虫のカメムシを防除する時期に当たる。一部の死骸からは殺虫剤の成分を検出、このうちネオニコチノイド系が3分の2を占めた。

 農水省はネオニコチノイド系農薬が影響した可能性を認める一方、稲作にとり重要な農薬、との位置づけは変えていない。このため養蜂家と農家が情報共有し、水稲の開花期に巣箱を退避させることなどを呼び掛け、被害を減らしたい考えだ。

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 ただ、国の対策は不十分という声は根強い。NPO法人「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の水野玲子理事は「世界的に見れば信じられないほど無策。この農薬は周辺の水系も汚染し、それをミツバチが飲む。使用中止以外に対策はない」と話す。

 専門家の間では、子どもの脳発達に悪影響を及ぼす可能性も指摘され、他の殺虫剤成分との相互作用を検討していないなど、農薬のリスク評価の不備を指摘する科学者たちの報告もある。

 たとえ科学的根拠が完璧でなくても、取り返しのつかない被害が出る恐れがあれば、十分な対策を講ずるべきではないのか‐。こうした「予防原則」の立場から、使用禁止を求める声は年々高まっている。

 危険性を訴える市民や研究者と国との間に、なぜこれほど大きな溝が生じるのか。そこには「想像力」と「記憶」にどれほどの価値を置くのか、という大きな立ち位置の違いがある。

 想像力とは、ミツバチたちの異変を、人間を含む生態系破壊への警鐘と見るのかどうか。記憶とは、対策が後手に回り被害を拡大させてきた公害の負の歴史だ。

 それはいずれも、国が施策を決める判断材料のはず。「科学的知見に基づき施策を決める」(農水省担当課)のと同時に「取り返しのつかない被害」が家族に及ぶことも想像してはどうだろう。


=2016/11/02付 西日本新聞朝刊=

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