赤身肉(下) あか牛、健康にこだわり 国産飼料を試行錯誤/おいしさ基準も独自

牛舎で肥育される「あか毛和牛」
牛舎で肥育される「あか毛和牛」
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阿蘇五岳を望む産山村の牧草地。「あか牛の重要な餌です」と井信行さん
阿蘇五岳を望む産山村の牧草地。「あか牛の重要な餌です」と井信行さん
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 黒毛和牛ならぬ「あか毛和牛」の最高ランク「三つ星」を生み出す畜産農家は全国でわずか2軒。うち1軒が熊本県産山村(うぶやまむら)にあると聞き、大分県境に近い阿蘇外輪山に広がる牧草地を訪れた。「野草ではなく栄養のある牧草が、あか牛を大きく育てます」。この道67年の井信行さん(82)が牧野組合が管理する270ヘクタールを見渡した。

 飼育する21頭は「信行牛(のぶゆきぎゅう)」の名で通る。一番のこだわりは餌にある。

 子牛の期間は放牧して牧草と野草が中心。牛舎での肥育期間も牧草など繊維質の多い粗飼料が半分以上を占める。欠かせないタンパク源は大豆と、豆腐店でもらうおから。カルシウムは八代海のカキ殻の粉末。こうじ菌で発酵させたもみも加え、計10種に及ぶ飼料はすべて国産だ。「原料の加工も含めて試行錯誤の連続。10年かかってやっと2、3年前から大きく育つようになった」

 コスト面で厳しい国産飼料になぜこだわるのか。

 牛は本来、草を食べて生きる。黒毛和牛は、ほぼ輸入のトウモロコシなど濃厚飼料を大量に与え、内臓に負担をかけつつ、さし(脂身)を入れるが、そんな必要はないと思う。阿蘇の広大な牧草地を生かす地域循環型農業を実現したい。大好きな村の存続にもつながるはず。長年の経験から導き出した結論だった。

 「放牧、採草、野焼き、飼肥などの適正な管理により、生物多様性の保全、草原の景観維持や水源涵養(かんよう)にも貢献し、輸入飼料に頼らない今後の和牛飼養のモデルの一つ」。そんな評価を受け2016年、食文化の発展を目指す辻静雄食文化財団(大阪市)から農家として初めて表彰された。

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 あか毛和牛の飼育頭数(16年)は全国で2万500頭。和牛の97%を占める黒毛の159万4千頭よりはるかに少なく、統計が残る1999年と比較すると3分の1に激減している。

 阿蘇でも、かつては農作業に使う役牛でもあり、数多く飼われていた。しかし90年ごろから、競り値の高い霜降り肉をつくるため黒毛への転換が相次いだ。

 全国のあか毛和牛の生産者は、その地位向上と普及を目指し「全日本あか毛和牛協会」(熊本市、穴見盛雄代表理事)を2011年に設立。あか毛和牛を名乗る条件として、国産の粗飼料を与えていること、肉質は赤身の割合が70%以上、協会認定の農家が飼育することなど独自基準を設けた。認定農家は牛舎の面積や飲み水の設備など飼育基準をクリアする必要がある。

 三つ星を最高とする4段階の独自の評価制度も、牛の健康に主眼を置き、飼料内容や放牧の有無で判断する。放牧と粗飼料を組み合わせれば、うま味となる遊離アミノ酸が増える可能性もあるからだ。

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 霜降りとは異なる「赤身」「健康な牛」という価値への関心は着実に高まっている。「草を食すことで生じるわずかな青臭さが肉の風味を上げる」と語るのは、飼料と肉質に詳しい独立行政法人家畜改良センター(福島県)の入江正和理事長。「マグロの大トロ、中トロのように牛肉もバラエティーがあっていい。多様な好みに応える生産態勢が必要」と指摘する。

 全国で北海道と熊本でしか産出されない三つ星。「信行牛」の出荷は年間わずか十数頭だ。大分県日田市の川津食品や東京の業者を通じてレストランやホテルで提供される。井さんは出荷後、必ず業者に電話する。どんな反応が返ってくるか「そのたびに緊張する」という。

 「肉も生産者の顔が見えないと。私の餌もまだまだ。もっと肉のうま味を追求していきますよ」。挑戦は続く。

 ▼牛肉の表示 国産牛と輸入牛(原産国表示)の大きく二つに分かれる。国産牛のうち黒毛和種、褐毛(あかげ)和種(あか毛和牛)、日本短角種、無角和種の4品種は「和牛」と表示可能。これ以外の国産牛は「ホルスタイン種」「ジャージー種」などと表示できる。


=2017/07/05付 西日本新聞朝刊=

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