自然派ワイン 多様性醸し出す 宮崎・綾町の香月さん「無駄は何一つない」

多様な品種を栽培する香月ワインズのブドウ畑。野花や野草など下草も多様だ
多様な品種を栽培する香月ワインズのブドウ畑。野花や野草など下草も多様だ
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香月克公さん
香月克公さん
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初蔵出しの白と赤のワイン。瓶のラベルは月と太陽をデザイン化している
初蔵出しの白と赤のワイン。瓶のラベルは月と太陽をデザイン化している
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 自分探しの旅で訪れたニュージーランド。宮崎市で育った25歳のバックパッカーがたどり着いたのは、世界的な白ワイン産地マールボロのワイナリーだった。ブドウの収穫や仕込みを手伝ううちに、発酵が生み出すワインの魅力に引かれた。「品種によってこれほど味が違うものなのか」。出来上がったワインの鮮烈かつ魅惑的な香りのとりこになった。ワイン造りの道を決意した瞬間だった。

 今月、福岡市のホテルニューオータニ博多で催された「宮崎フェア」(28日まで)。23日の主役は宮崎県綾町のワイナリー「香月ワインズ」代表の香月克公(よしただ)さん(43)だった。

 開園して初の蔵出しとなった今季は、台風などの悪条件が重なった。それでも原料にこだわり、最高を目指した「奇跡の千本」が完成、20日に売り出した。税込み1本1万800円。想定よりはるかに少ない生産本数になり、来季のためにはこの価格にせざるを得なかった。「苦渋の決断。今年一年だけお許しください」。来店客に理解を求め、ワインに懸ける夢を伝えた。

   ◇    ◇

 マールボロの経験すべてが原点になった。現地のワイナリーで2年間働いた後、地元の技術専門学校で醸造学を3年間学んだ。入学できたのは地元クラブで一緒にラグビーボールを追った農家や醸造家が「彼なら大丈夫」とスクラムを組んでくれたおかげという。

 卒業後は輸出も手掛ける企業的ワイナリーで働いた。その後ドイツに渡り、人口600人の村の老夫婦が営むワイナリーに住み込んだ。家族や近所の住民が総出で収穫して仕込む様子にほんわかした。現地価格は1本700円ほど。注文を受け車で家々に配達していた。

 家族労働や地域の絆が造るこの酒に幸せを見つけた。「心の温まるワイン造りがしたい。家族のいる宮崎で」。古里を離れて10年、帰国の時が来た。

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 宮崎県には現在、九州で最も多い6カ所のワイナリーがある。その一つ、都農(つの)ワイン(都農町)は2006年、国内コンクールで最高賞を得た。宮崎は高温多雨で、正直言えばワイン造りには最悪の気候。それでもやれると香月さんも背中を押された快挙だった。

 香月ワインズの畑は、父親が開いた綾町の農園を譲り受けた。化学肥料に頼らず無農薬で栽培しようと土作りから始める。雑草を生やし放題にして3年、生態系が生まれ「自然の循環が始まった」のを感じた。

 帰郷から8年目。ぎりぎりまで完熟を待った昨年8月末、ブドウの熱を少しでも冷ますため午前0時に収穫を始めた。未明の作業は2日間。地域の農家や宮崎市の飲食店主ら約60人がボランティアで駆け付けてくれた。

 栽培したのは主に欧州から持ち込んだ約40品種。単品種での醸造が多い中で、多品種を一緒に仕込む「混醸法」を選んだ。傷みのない分を厳選した。発酵する約2週間は片時も離れず、酵母の様子を見極めて温度を下げたり酸素を送ったり。発酵はブドウなどに付着する天然酵母に任せた。どんなワインになるか「ドキドキしながら待った」。

 100%国産の個性豊かなブドウたちが混然一体となった自然派ワイン。修業を通して実感した、自然に生かされているちっぽけな自分の、目指すべき所に思えた。「太陽や月、酵母菌や土壌菌、自然はすべてがつながり、無駄なものは何一つない。その多様性が香月ワインズのテーマです」

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 ホテルレストランでのお披露目は華やかだった。白は洋ナシの華やかな香りと黄金色が目を引いた。赤はカシスの香りと程よいタンニンが和食にも合いそうだ。いずれもほんのり炭酸を感じる。シェフソムリエの小松卓哉さん(47)が言う。「エキスを十分引き出したピュアなワイン。いろんな品種に挑戦するというこれからが楽しみです」

 奇跡の千本は、まずは地産地消、その多くを宮崎県内に出荷するという。

=2018/02/28付 西日本新聞朝刊=

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