未来をつなぐ有機農業 寛容な社会、野菜作りから学ぶ

小野邦彦さん(左)と池内計司さん(右)のトークイベント
小野邦彦さん(左)と池内計司さん(右)のトークイベント
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「坂ノ途中」の農園は耕さない不耕起栽培。ブロック状に掘り出した土を並べて形成したうねで、雑草もそのままに野菜を育てる=写真は同社提供
「坂ノ途中」の農園は耕さない不耕起栽培。ブロック状に掘り出した土を並べて形成したうねで、雑草もそのままに野菜を育てる=写真は同社提供
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「坂ノ途中」の農園で栽培したズッキーニの一種「イエローストレートネック」。珍しい野菜を自家採種して育てるのも同社の特徴だ=写真は同社提供
「坂ノ途中」の農園で栽培したズッキーニの一種「イエローストレートネック」。珍しい野菜を自家採種して育てるのも同社の特徴だ=写真は同社提供
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 「農業は最大の環境破壊ツール(道具)です」。そんな過激な言葉でトークイベントは始まった。

 農薬や化学肥料に頼ることによって土は痩せ、水は汚れ、その土地で将来得られるはずの収穫が失われる。いわば「未来からの前借り」をしているのが現行の農業だという。

 発言の主は、農薬や化学肥料に頼らず生産された有機野菜を販売する「坂ノ途中」(京都市)の社長、小野邦彦さん(34)。2009年設立の同社は、次世代に豊かな土を残す、100年先も続く農業を目指す。そのために有機農業を始める就農者を育て、不安定な収量や、少量でも対応できる販路づくりに努める。

 取引農家約200軒のうち新規就農が9割。売り上げの6割を占めるインターネット通販のほか、飲食店や小売店を通して約400種の野菜を取り扱う。社名には彼らと共に挑戦の坂を登るパートナーでありたいとの思いを込めた。

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 小野さんは学生時代、海外の遺跡を巡った。遺跡という「社会が滅んだ残骸」が世界中にあるのを見て「人間は至る所で社会を終わらせてきた。終わるのが当たり前なのだ」と感じた。

 一方、チベットでは乏しい資源の中で循環が目に見えた。野草を食べるヤクの乳を、そのふんを乾燥させた燃料で温めて飲む。「廃虚になり得ない、格好いいなあ」と感じ、そんな生き方に憧れた。

 家庭菜園の野菜で育った小野さんは、1人暮らしを始めてスーパーの野菜の味の違いに驚いた。農業に関心を持ち、その「すさまじい環境破壊」の歴史も知る。次々に農地を開き、だめにしては次を開墾する。砂漠化の原因の8割が農業ともいわれる。農地拡大の歴史は限界を迎えているとの思いから環境負荷の小さい農業に関わろうと思った。

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 トークイベントを主催したのはタオルメーカー「イケウチ・オーガニック」(愛媛県今治市)。福岡市の博多リバレインモールの店舗で定期的に開くイベントの一環だった。対談した代表の池内計司さん(69)は、製品の原料となる綿の世界は「無造作に農薬を使い、遺伝子組み換えをする環境破壊が最も進んだ農業分野」と指摘する。有機栽培の綿花にこだわり安全を考慮するのは「タオルは赤ちゃんが口に含む。野菜と同じ」と考えるからだ。生産者から消費者まで誰も犠牲にならない物づくりを心掛ける。

 食の安全に小野さんが呼応した。「防腐剤がたっぷりかかったきれいなミカンがいいのか、何日かたつと腐るミカンがいいのか。ちょっとした不便さには消費者に歩み寄ってほしい」

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 国内の有機農業は耕地面積の1%以下。国は有機JASマーク制度の普及や農法の技術開発などを進める基本方針を14年度に策定し、有機農業の拡大を図る。

 これは生産サイドの取り組みだけでは難しい。小野さんが顧客に伝えるのは、生き物を食べているという意識を持つことだ。「例えば2~3月に収穫する大根には、どうしても『す』が入る。そんな時は春が近いなあ、と感じながら食べてほしい」。季節の移ろいや旬を味わうことにもなる。

 自社農場で研修生たちは、料理が上手な者はみんなの「まかない料理」を、力仕事が得意な者は運搬仕事をと、一人一人が異なる役割を果たしながら自然栽培を実践している。「人生の迷子になって」(小野さん)ここに来た者もいる。みんながいつも同じ方向を向いていなくてもいい。小野さんは、そう考えている。

 「ぶれを許さない社会は息苦しい。寛容さを獲得する最初の練習を野菜で始めてもらう。寛容さがみんなに染み込んで、他人のぶれや無駄を許せるようになる。そして世の中、平和になっていく」

 思い描くのは、いろんな意味で「持続可能な社会」。有機農業は生産物にとどまらず、多様な実りをもたらすツールになるのかもしれない。

=2018/05/16付 西日本新聞朝刊=

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