「柳川堀割物語」にみる共生の流儀 水路の町 水との付き合い 自然の大きな循環の中に 人間はいる

市内の総延長が930キロという柳川の掘割。住宅のすぐ横を流れる
市内の総延長が930キロという柳川の掘割。住宅のすぐ横を流れる
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「柳川堀割物語」の上映会の後、製作当時を知る関係者らが撮影秘話や掘割再生の背景などを語り合った
「柳川堀割物語」の上映会の後、製作当時を知る関係者らが撮影秘話や掘割再生の背景などを語り合った
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 「柳川は柵のない、いい町だったですねえ」。東京の「スタジオジブリ」を訪ねたとき、宮崎駿(はやお)さんはそう言って撮影に来ていた頃のことを思い出したという。福岡県柳川市の市職員、堤富大(とみひろ)さん(54)が5年前の思い出を振り返った。

 撮影した作品とは柳川の掘割再生を扱ったドキュメンタリー映画「柳川堀割物語」(1987年公開)。4月に82歳で亡くなった高畑勲さんが監督、宮崎さんは製作(プロデューサー)を務めた。多くの名作アニメーション映画を世に送り出した2人である。

 本作に宮崎さんの言葉を映像で表現したようなシーンがある。広場で遊ぶ子どもたちが水路に転がり落ちたボールを拾おうとする。そこに柵はない。やんちゃな子どもたちが懸命に手を伸ばす姿が、水辺に人々の暮らしがあることを物語る。

 現地ロケは84~85年。高畑監督は当初、アニメ映画を念頭に取材のため訪れた。そこで広松伝(つたえ)さん(1937~2002)に出会う。水路の担当係長として、汚染が進んだ掘割の埋め立て計画を撤回させ、市民との協働で昔の美しい掘割を取り戻した人だ。話を聞いた監督は感銘を受けて方針を転換、ドキュメンタリーを思い立った。

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 20日、高畑監督を追悼する上映会が柳川で開かれた。上映後は、市と共催した市民団体「水の会」会長の立花民雄さん(71)をコーディネーターに座談会もあった。冒頭の「柵」の話を紹介した堤さんは撮影当時、広松さんと同じ環境水路課にいた。

 上映時間は2時間45分に及ぶ。のどかな水路を点描し、家のすぐ横を流れる掘割に炊事場から下りる階段など、かつて飲み水を取っていたころの名残を映し出す。

 掘割の成り立ちには引き込まれた。その仕組みは実に巧妙。堰(せき)によって川から水を引き、下流の水門が海水の逆流による入り込みを防ぐ。橋が架かる所は水路を狭め、流れを速めて水をよみがえらせる。大雨のときは貯水量を増やし、潮が引いたときに排水する。そんな利水と治水を両立させる「もたせ」と呼ばれる工夫は、低地を生き抜いてきた祖先が培った知恵として「強引な近代の方法」と対比して描かれる。

 「自然の大きな循環の中に人間もいることを忘れてはいけない」と話していた広松さんは、祭りを「もたせ」に例えたという。「もたせが掘割を浄化するように、祭りは生活の流れの中に節目を与え、生き直しをさせてくれる」。季節ごとの祭りのシーンは、住民の生き生きとした表情が印象に残り、作品の中で丁寧に切り取られる理由が分かる。

 年に1度、掘割の水を抜いて清掃し、泥は肥料に、魚は捕獲して食べる市民総出の「水落ち」という行事にも引き込まれる。掘割の底に酸素を供給し、微生物の活性化など自然の力を取り戻す重要な働きがあるという。「煩わしい水との付き合いをやめると川はだめになる。きれいな水がある理由を理解し、後世に伝えていかなければならない」。そんな広松さんの言葉と水落ちの映像が重なる。

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 高畑監督はアニメ製作に向けて書いたシナリオで都市河川の再生について、こう記している。

 「自然との循環の中で一本の小川を守り育てた祖先の営為に学び、小川をよみがえらせる中に生み出される柔軟な技術と工夫、小川への愛と労働にこそ、都市河川を真に復活再生させる正しい鍵が隠されているのではないか」

 高畑さんの考察は、広松さんの川と向き合う姿勢と共鳴し、映画を形作っていったのだろう。自然と人間が共生するための一つの流儀を見る思いがした。

 監督としての遺作「かぐや姫の物語」(2013年)では、翁(おきな)の行き過ぎた願いに束縛される姫の寂しさを描き、生きる意味を問い掛けた。本作の底流にもあるテーマではないだろうか。自然と一体になり、掘割と共に暮らす住民のはじけるような笑顔に、そんなことも考えさせられた。

=2018/05/30付 西日本新聞朝刊=

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