ウナギ、絶滅危惧種だけど食べていい?稚魚10倍に値上がりも

ビニールハウスのような屋根に覆われた牧原養鰻の飼育槽。水温は30度。手前の囲いに朝夕、餌を入れる
ビニールハウスのような屋根に覆われた牧原養鰻の飼育槽。水温は30度。手前の囲いに朝夕、餌を入れる
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 夏バテ防止といえばウナギ。サッカーのワールドカップロシア大会で日本チームも試合前日に食べたとか。土用の丑(うし)の日(今年は7月20日)は近いけれど、絶滅危惧種となって4年、食べてもいいの?

 巨大なビニールハウスのような飼育槽の窓から中をのぞいた。餌場の囲いの中で待ちわびるようにウナギが上に下にうねっている。

 「よく餌を食べるし、少々手荒に扱っても大丈夫。ものすごい生命力です」

 養殖の生産高日本一の鹿児島県、大隅半島の中ほどにある牧原養鰻(まん)(東串良町)社長の牧原博文さん(50)が説明してくれる。飼育槽は全部で10ある。「大隈では一番小さい方です」

 ウナギは飼育下で子供を産ませ、増やすことはできないため、養殖業者は、天然の稚魚シラスウナギを別の業者から買い入れ、半年~1年半育てて出荷する。今年は2月と4月に計38キロを仕入れた。

 シラスの国内採捕量は今年、史上2番目の不漁だった。1980年代以降、低水準で推移し減少傾向が続く中、仕入れ値は前年の実に4倍に跳ね上がり「採算割れは確実」という。

 妻の実家を継ぐ形で始めた養鰻業は22年目。当初と比べシラスは10倍、魚粉主体の餌は2・5倍、重油は3倍と経費はまさにうなぎ上り。事業を続ける条件は厳しくなる一方だが「他に代わる物がない特別な魚。和食文化の一翼を担う自負もあるし、提供する義務もある」と力を込める。

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 ニホンウナギの減少は河川の護岸工事や河口堰(ぜき)などによる生息環境の悪化、乱獲などが原因とされるが、生態は謎が多く、特定には至っていない。

 ウナギの産卵や回遊などに詳しい九州大の望岡典隆准教授(水産増殖学)によると、ウナギは5~10年、川や河口域で暮らし、約2500キロ離れた太平洋のマリアナ海溝の辺りまで半年をかけて移動、産卵して生涯を終える。赤ちゃんは北赤道海流、日本海流(黒潮)に乗って、これまた半年前後で東アジアに戻る。黒潮と接する日本の太平洋岸、中でも突き出た形の鹿児島、宮崎に多く泳ぎ着く。

 こうした生活史が解明されたのはマリアナ海域で卵などを採取できた2006年以降のこと。卵から成魚、その成魚が産卵する完全養殖は10年に成功し、資源問題の切り札と期待されるが、商業ベースに乗るにはまだまだという。

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 資源保護のためには食べない方がいいのだろうか。

 牧原さんのウナギは所属の大隈地区養まん漁協(21組合員)を通してかば焼きに加工、出荷される。出荷先の一つ、パルシステム生協連合会(東京都)は同漁協などが資源回復に向けて取り組む計画に賛同、募金などで17年度は約886万円を寄付し、放流の研究費などに充てられている。

 商品も個体数をできるだけ減らさないよう通常の1・5倍の300グラム近いウナギを扱う。望岡准教授は「半年間、2500キロの旅に思いをはせ、資源の枯渇について考えながら高価なウナギを味わってみてはどうでしょう」と話す。

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 現在、養殖業は届け出制となり、養殖池に入れるシラスの量は報告が義務付けられている。シラス採捕は知事の許可を受けた者に限られる。ところが、養殖される6~7割は無許可で漁獲された可能性があり、密漁や違法取引が横行しているとの報告をワシントン条約事務局が公表している。取材では、記者との接触を避けたいという関係者の空気も感じたが、これまでの慣行と絶滅防止対策に挟まれた業界のきしみも垣間見えた。

 大量消費をもたらしたスーパーのパック販売は、インドネシア産に目を向ける。日本がかつて中国経由で大量に輸入し、絶滅危惧種に追いやったヨーロッパウナギの二の舞いを危ぶむ声もある。世界最大の消費国日本の責任は重い。

 こうした問題の背景には、需要が夏に集中し過ぎることもある。そもそもうなぎの旬は脂が乗る秋冬らしい。養殖でも飼い始めて半年後の夏ではなく、1年近くたった秋冬が十分身も脂も乗っておいしいそうだ。

 夏にこだわるのはやめよう。土用は立春、立夏、立秋、立冬前のそれぞれ18日間を指す。

=2018/07/11付 西日本新聞朝刊=

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