<3>答案用紙 母から隠す

小学生時代の小鴨さんと、父の立郎さん、母の祐子さん
小学生時代の小鴨さんと、父の立郎さん、母の祐子さん
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●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 小学生の私は、ちょっと要領の悪い子でした。母の祐子(さちこ)は教育熱心で、私のテストの点数をチェックし、80点以上でないと怒るのです。点数が悪いテストの答案用紙をどうするか-。私は妙案を思いつきました。

 家に帰る前、ひとまずランドセルの普段は使っていないチャック付きのポケットにテストの答案をしまっておき、母のランドセルチェックに臨みます。それをやりすごした後、こっそり勉強机の引き出しの奥に押し込むのです。

 それで何回かはうまくいきましたが、そんな子どもだましはいずれ見つかります。母にめちゃくちゃに怒られ、泣いて謝りました。

 そんな厳しい母でしたが、私も親になって分かりました。最初の子どもを産むと、女性には「育児の責任」というプレッシャーがのしかかるのですね。1人で無理して頑張るから、応えない子どもが歯がゆくて怒ってしまう。昭和はそんな時代だったと言えば、それまでですが、私の母が懸命に育児に向き合っていたことは間違いありません。

 そんな怖い母とも、社会人になったら対等に話せるようになりました。ある日、母が「由水ちゃんに一つ、謝っておきたいことがあるの」と言います。私は幼い頃、病弱で、風邪をひいては祖父の医院に駆け込んでいたと前回、話しましたね。その原因は、何と生後4カ月のツベルクリン検査で私が陽性だったのを、母がうっかり忘れていたからというのです。この検査は結核感染の有無をみて、陰性だったら「はんこ注射」と呼ぶ結核予防のBCG接種を受けますが、私の腕にはんこの痕はありません。

 「ということは、私は赤ちゃんの時、結核にかかっていたかもということ?」

 「そうなるわね」

 怒るのを通り越して、大笑いしました。母はそんな大事なことをすっかり忘れ、幼い私をせっせと海に連れていき、スイミングスクールに通わせていたのですから。そういえば、ダイハツ入社時の健康診断で、医師に「エックス線検査で胸に白い影があった。よくこんな胸で走ってるね」と言われました。結核だったのかもしれないですね。

 そんな母ですが、私にとってはずっと、一番の恩人です。だって親って、反面教師にもなるのですから。ちなみに、私の次男の壮司(たけし)は3月で小学校を卒業しましたが、悪い点数の答案も平気で見せていました。私は壮司のランドセルの中を見たことはありません。

=2018/04/04付 西日本新聞朝刊=

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