<10>金魚のふん 記録向上

小鴨さんがお手本にした吉田光代さん(左)の走り。1993年パリ・マラソンで優勝した
小鴨さんがお手本にした吉田光代さん(左)の走り。1993年パリ・マラソンで優勝した
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●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 18歳でダイハツ陸上部に入部した私は、先輩の吉田光代さんを目標にしていました。吉田さんは「身長は170センチ」と言っていましたが、実際は173センチあったと思います。当時の日本女子長距離界は、増田明美さんのような小柄な走者が多かったのですが、吉田さんは「世界と戦える大型ランナー」と周囲の期待を集めていました。身長172センチの私にとっては、絶好のお手本がすぐそばにいたのです。

 鈴木従道(つぐみち)監督から「吉田の後を走れ」と命じられたこともあり、練習では吉田さんをつけ回しました。ジョギングでもタイム走でもまるで金魚のふんのようにくっついて走るのです。よく職人さんが「学ぶよりまねろ」と言いますが、ずっと憧れの人の後ろを走っていると、だんだんフォームが似てくるのですね。いつしか、完全に吉田さんになりきって走っていました。

 入社3カ月後に迎えた最初の記録会。私の記録は停滞していた高校時代がうそのように伸びました。3千メートルが10分10秒から、10分を切って9分53秒に。5千メートルも25秒短縮しました。それでも、鈴木監督からは「もうちょっと走れたぞ」と叱られましたが…。11月には神戸20キロロードレースで1時間12分台をマーク。1年前よりタイムを5分短縮し、自信になりました。

 そんなふうに私の実業団1年目は順調に過ぎていきましたが、2年目に大きなピンチを迎えます。故障したことをきっかけに、摂食障害に陥ったのです。

 始まりは、入社を機に取り組んだ食習慣の改善でした。高校時代の私の体脂肪率は15%でした。これを長距離選手の理想である8%まで落とそうと、間食をやめたのです。平日は朝昼晩に寮で出される食事以外は口にしません。寮の食事がない休日はコンビニに行きますが、お弁当や総菜の裏のカロリー表示を見ては、買うのを諦めていました。でも、体は糖質を欲しがります。店に入ると、やたら菓子パンが目につくのには弱りましたね。

 昨年から今年にかけて、元世界選手権女子マラソン日本代表のある女性が、万引で2度も逮捕される事件がありましたね。万引は絶対にいけないことですが、自分に歯止めをかけられなくなる感覚が、私には少しだけ理解できるのです。摂食障害に陥ると、まじめな人ほど自分を追い詰め、何が何だか分からなくなることがあります。彼女もそうだったのではないでしょうか。

=2018/04/13付 西日本新聞朝刊=

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