<59>道下さんの伴走者に

●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 「目が見えない私の伴走をしてくださる方を探しているんですが…」。2010年、福岡市立障がい者スポーツセンターに一本の電話がかかってきました。これが、私が新しい道、障害者の伴走活動に入っていくきっかけでした。

 電話の主は、道下美里さん。その6年後のリオデジャネイロ・パラリンピックで、女子マラソン(視覚障害)銀メダリストに輝く女性です。私は08年からセンターの運動指導員に復帰していました。上司から「道下さんの願いに応えてあげられるのは、五輪ランナーのあなたしかいない」と背中を押されたのです。

 早速、道下さんがセンターに訪ねてきました。第一印象は「めっちゃかわいい人だなあ」。私より6歳下で30歳を過ぎているそうですが、全くそうは見えません。話すと、すごく明るく前向きで、いっぺんで好感を持ちました。この明るさの陰には、人に言えないたくさんの苦労があったんだろうと感じたのです。

 道下さんは山口県下関市出身。中2の時に病気で右目を失明し、その後左目の視力も0・01以下になったそうです。山口県立盲学校(現県立下関南総合支援学校)で陸上を始め、才能が開花。06年に陸上のジャパンパラ大会女子800メートルと1500メートルで優勝し、マラソンに転向したのです。

 「マラソンで視覚障害者の日本記録を出すのが夢なんです」と語る道下さん。結婚して下関市から福岡県太宰府市に引っ越してきたけど、伴走者がいなくて困っているとのこと。ここで断れば女が廃ります。「私で力になれるなら」と、喜んで引き受けました。

 視覚障害者の伴走には、「きずな」と呼ばれる1メートルほどの長さのロープを使います。これを輪にして、両端を障害者と伴走者が軽く手で握り合うのです。まずは大濠公園や春日公園で軽く走ってみて、私は「これは難しい」と直感します。ネックは身長差でした。私は172センチ、道下さんは144センチで、その差28センチ。ピッチや歩幅があまりに違って、お互いにぎくしゃくした走りになるのです。

 さて、どうするか。私は両脚と右手は普通に動かしつつ、きずなを持つ左手だけを道下さんのピッチに合わせてちょこちょこ振ることにしました。指揮者のタクトに例えると、右手で四分音符、左手で八分音符を振る感じですかね。私ってなかなか器用でしょう。これで、私たちの呼吸は次第に合っていきます。

=2018/06/12付 西日本新聞朝刊=

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