<60>「きずな」につながれ

筑後川マラソンで10キロを完走し、仲間と記念撮影する小鴨さん(後列右)と道下美里さん(前列右)
筑後川マラソンで10キロを完走し、仲間と記念撮影する小鴨さん(後列右)と道下美里さん(前列右)
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●バルセロナ五輪女子マラソン日本代表 小鴨 由水さん

 私は2010年、視覚障害がある女性ランナー、道下美里さんの伴走者になりました。一緒に練習を重ねるにつれ、伴走の奥深さが分かってきました。

 2人のピッチの違いは、私が小刻みに左手を振ることで解決できました。難しかったのが、声掛けです。道が上るのか下るのか、障害物があるかなど、的確に伝えないといけません。指示が遅れるのは論外ですが、あまり早くても走りを乱します。ちょっとした段差も転倒事故を招くので要注意。常にコース全体を見回さないといけません。

 私は彼女の息遣いをうかがいながら、疲れていると思ったらペースを落とし、まだ行けるとみたら上げました。私の左手、彼女の右手に握られた「きずな」が、2人をつないでいました。

 そして10月10日、私たちは「筑後川マラソン」の10キロの部に出場します。筑後川の河川敷を折り返すコースは、高低差も少なく、視覚障害者にも安全でした。

 ところが、コースの幅がかなり狭くて大変でした。遅い選手を抜く時は「さあ抜くよ」と声を掛け、私が道下さんの前に出て、2人1列になってスピードを上げます。折り返し付近は混雑がひどく、彼女を接触から守るのに必死でした。

 奮闘のかいあり、道下さんは一般ランナーに交じってメダルと表彰状を獲得。伴走者の私はもらえませんでしたが、道下さんは「伴走者あっての私たちなのに…。私だけもらってごめんなさい」と謝ります。そしてこう言ったのです。

 「ありがとう。とっても走りやすかったです」

 伴走者にとって、こんな褒め言葉はありません。

 しばらくして、私は彼女をあの30キロコースに連れ出します。重松森雄監督から教えてもらった、10キロを一気に上り、最後は10キロをガーッと下る山道です。重松監督が車で伴走し、給水もしてくれました。私はこんな難コースを走ることで、彼女に持久力と挑戦心を培ってほしかったのです。

 そうやって彼女はめざましく成長し、私は11年夏に伴走役を別の男性にバトンタッチしました。伴走者はマラソンなら、障害者より30分速く走れる実力がないと務まりません。彼女は、私にはもはや手に負えないランナーになったのです。

 彼女は昨年、視覚障害女子の世界新記録、2時間56分14秒をマークしました。目標はただ一つ、2020年東京パラリンピックでの金メダルです。皆さん、絶大な応援をお願いします。

=2018/06/13付 西日本新聞朝刊=

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