【君(ペット)がいるから】<7>犬に財産を残した女性

飼い主と犬の絆に胸が熱くなることも(写真と記事は関係ありません)
飼い主と犬の絆に胸が熱くなることも(写真と記事は関係ありません)
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 ある高齢女性の話をします。「ももすけ」と「ロン」という2匹の中型犬を飼っていました。2匹はとてもやんちゃで、他の動物病院ではかんだり威嚇したりして、診察すらさせないとのことでした。

 でも、なぜか私とは相性がいい。飼い主の女性も私を信頼してくれた縁から、竜之介動物病院(熊本市中央区)に通ってくるようになりました。女性はとにかく神経質で、犬たちの少しの変化も見逃しません。

 こんなことがありました。「(餌の)ドッグフードがいつもと少し違う」と言います。見た目には全く変わらないのですが、女性は譲りません。メーカーに調査を依頼すると、驚いたことに微細なプラスチック片が混入していました。こんな具合に、犬の体調異変にも敏感で、「ちょっとおかしい」と言えばほぼ異変が見つかりました。

 一方で、心臓に持病があるロンの投薬治療に関して、獣医師の指示を的確に守ってくれました。神経質ではありますが、飼い主の姿勢としては感心するばかりでした。

 そんなある日、医師から突然の電話があり、女性が入院しなければならない状態だと言います。それもロンと同じ心臓病。私は飼い主である女性の具合が悪いことなど全く知りませんでした。

 医師から「犬の世話があるから入院しない」と強硬な女性を説得してほしい、
と依頼されました。私はすぐに女性に連絡し「犬たちは責任持って預かる」と約束。やっと承諾した女性は翌日から入院しました。幸い2~3日で退院できました。

 しかし、半年ほどたったころ、女性の容体は再び悪化。今回は少し様子がおかしい。女性は「もし私に何かあったら犬たちをお願いできますか」と極めて深刻でした。動物たちの異変にあれほど敏感な女性の言葉に、私も少し緊張したのを覚えています。

 結局、私が「万が一のときは犬たちの責任は持つ」という趣旨の誓約書を書いて安心してもらい、再入院となりました。数日後、女性は急変し、そのまま亡くなりました。ロンとももすけは誓約書通り、私の病院で預かりました。

 女性が亡くなって1カ月後、遺族が病院を訪ねて来て「遺書があった」と教えてくれました。「ロンとももすけを預かってくれる先生に私の全財産を」と書かれていたそうです。ほそぼそと暮らす高齢者が「自分に万が一のことがあったときのために」と、飼い犬たちのために蓄えていたのでしょう。胸が熱くなりました。

 それから1年後にロンが、さらに1年後にももすけが、まるで飼い主の後を追うように旅立ちました。支え、支えられて生きていた命が、その支えを失った結果だったと思えてなりません。

(竜之介動物病院長、熊本市)

※この記事は2016/09/15付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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