揺れる新出生前診断 認定施設外でも検査 手厚いカウンセリングや 家族で考える時間が必要

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 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」が揺れている。2013年4月に開始して以来、受診者が3万人を超える一方、必須のカウンセリングをせずに認定施設外で検査が行われていることが分かり、日本産科婦人科学会(日産婦)は今月、医師3人を処分した。「命の選別」につながると懸念される検査だけに、それぞれの立場で慎重な対応が求められている。

 胎児の病気や障害を調べる出生前診断には、さまざまな手法がある=表。うち新出生前診断は、技術的には採血だけで高い精度の検査が可能だ。このため、安易な人工中絶につながらないよう、日産婦は指針を設け、(1)日本医学会が認定した施設(現在78カ所)だけで行う(2)施設は妊婦や家族が検査の意義などを理解した上で意思決定できる「遺伝カウンセリング」を行う(3)出産時に35歳以上など妊婦に条件を求める-としている。

 しかし都内の民間業者は9月、こうしたルールを無視し、英国の検査会社と提携して新出生前診断のあっせんを始めた。「国内価格の半額」「年齢制限なし」-。ホームページでは宣伝文句とともに「検査を受けたくても受けることができない妊婦が多くいる。違法性がない限り提供すべきだ」と主張する。検査のみでカウンセリングはない。

 日本医師会や日産婦など5団体は先月、こうした認定外施設での検査中止を求める共同声明を出した。採血自体はどの医院でも容易にできるため、声明では産婦人科以外の医師にも指針を守るよう求めた。

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 新出生前診断は羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査のように流産のリスクがなく検査できるとあって、妊婦とその家族の選択肢を増やした。それだけに、当事者たちは大きく揺れ動いている。

 都内に住む女性(35)は7月、認定施設で新出生前診断を受けた。病院で案内されるまで検査の存在自体を知らず、高額な費用に「必要ない」と思った。だが、4歳上の夫が「高齢で経済的な問題もある。リスクがあるなら知りたい」と強く希望し、2度のカウンセリング後に検査を選んだ。

 結果は、染色体異常の可能性は低いというものだった。女性は「カウンセリングを受けたことで、検査で分かる障害はほんの一部だということや、他の障害があって生まれてくる可能性も分かった。障害がある子を育てるということに、初めて夫婦で向き合えた」と話す。

 埼玉県内に住む女性(37)は、不妊治療を経て待望の第2子を授かったばかり。先日、医師から検査の案内を受けて以来、仕事や家事が手に付かないほど悩んでいる。「もし病気があっても絶対に産む」。そう決めていたのに、夫は「将来、長女に負担がかかるのではないか」と検査を主張。検査ができる期間は限られているが、結論は出ないまま日が過ぎていく。

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 日本ダウン症協会の理事を務める水戸川真由美さん(56)=東京=は、一般社団法人ドゥーラ協会が認定する産後ケアの専門家「産後ドゥーラ」として活動している。最近は産前から出生前診断に関する相談も受けるようになった。「夫婦2人で決めるには重い選択。遺伝カウンセリングだけでは不十分で、経験者による手厚い支援が必要」と実感する。

 染色体異常が分かった妊婦と会い、ダウン症や障害のある子の子育て経験や産前産後のことを話す。妊娠の継続か中断か、どちらかを勧めることはない。「どうなろうとも、どんな命にも意味がある。私は子どもから大きく育ててもらい、たくさんのものを与えてもらった」。相談者には、そんな思いを伝えている。

 出生前診断を行うのは妊娠初期。「十分に考える時間もないまま選択を迫られる。妊娠前から検査についてきちんと知り、考える必要がある」と語る。

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【ワードBOX】新出生前診断

 血液検査のみで、13トリソミー、18トリソミー、ダウン症候群の染色体異常が高い精度で調べられる。臨床研究として導入されている。研究チームによると、開始から3年間で3万615人が受診。547人が陽性と判定され、その後の羊水検査で染色体異常が確定した417人のうち、94%にあたる394人が人工妊娠中絶を選択した。


=2016/12/27付 西日本新聞朝刊=

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