破綻10年の夕張市、医療費抑制 病院ゼロ 住民ら意識変化 元市立診療所長 森田洋之さん 「在宅医療 充実を」

元市立診療所長 森田洋之さん
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 高齢化や医療の高度化に伴う医療費の増大に頭を悩ます自治体が多い中、北海道夕張市で市民1人当たりの医療費が抑制傾向にある。2007年の財政再建団体への転落で、唯一の病院をなくす“荒治療”を経てたどり着いたのは、予防医療と在宅介護の充実で最期まで自分らしく暮らせる街づくりだった。そんな夕張市の挑戦を描き、16年度日本医学ジャーナリスト協会優秀賞に選ばれた「破綻からの奇蹟(きせき)~いま夕張市民から学ぶこと」の著者で、夕張市立診療所元所長の森田洋之さん(45)=鹿児島市=にこれからの地域医療の在り方を聞いた。

 《夕張市の破綻で171床の市立総合病院が閉鎖され、19床の市立診療所と3人の開業医だけになった。現在、高齢化率は48・9%と全国の市で最高、人口は炭鉱最盛期の13分の1の約8700人まで減った》

 私が内科医として勤務した宮崎市の総合病院を辞め、妻子とともに夕張市に移り住んだのは09年。在宅医療に関心があったほか、破綻後、公設民営の夕張市立診療所の医師が在宅を柱にした地域医療の再構築に取り組んでおり、その姿勢や手法を学ぼうと思ったのがきっかけだった。

 診療所は破綻後の2年間で在宅医療の態勢を整え、訪問診療の対象は約120人。24時間対応の訪問看護や訪問介護の道筋も付けてきた。破綻前は市内で訪問診療をする医師はおらず、家でも介護施設でも、お年寄りに何かあったら救急車、延命治療-というパターンだった。それが定期訪問するようになり「食べられなくなったら、どうする? 胃ろうを作ることもできるけど…」と本人や家族の延命治療の希望を早くから聞けるようになった。

 《介護施設入所者など高齢者約560人に肺炎球菌ワクチンを接種し、口腔(こうくう)ケアも行うなど肺炎予防も徹底した》

 病院閉鎖で市民の健康状態が悪化していないか調べたところ、死亡率は横ばい。死因は肺炎が減り、老衰が目立つようになった。自宅や施設でのみとりが増えた結果、救急車の出動回数が半減し、医療費の大半を占める診療費も減った。介護費は増えたものの、トータルの費用は減少した=イラスト参照。

 市外の方からは「重症患者は市外に移り住んだんだろう」「市民は我慢しているのでは」と指摘を受けた。確かに子育て世代は流出した。だが75歳以上の後期高齢者は年々増加しており、腎臓病の透析患者数も減っていない。私がいた4年間で、高齢になって入院を希望する患者や家族に出会わなかった。市立診療所も年平均5、6床しか埋まらず、需要は低かった。

 夕張市の高齢者の半数は独居だが、最期まで自宅で過ごす人は多い。介護環境が整えば、住み慣れた家で自然に死を受け止めていくことが一番良いと市民も医師も気付いた。

 《九州各県は1人当たりの医療費が高く、とりわけ福岡県の後期高齢者医療費は10年以上、全国最高額となっている》

 全国的に見ても1人当たりの医療費が高いのは、人口当たりの病床数が多い都道府県。最大で医療費は1・5倍、病床数は3倍の開きがある。医師会の多くは「医療費が高いのは医療体制が充実しているからで、一概に悪いとは言えない」と主張する。だが病床数の多さが、平均寿命や健康寿命を延ばすことにつながっていないことは調査で明らか。医療が人々の幸せにつながっていない。

 胃ろうや気管切開の執刀医や慢性期病院の医師たちに「あなたなら延命治療をしますか」と聞いてみるとよく分かる。本人の意志による延命治療はすべきだが、そうでない場合が少なくない。

 《地域包括ケアの実現に向けて各県が策定する地域医療構想には、離島の病床を4割削減といった数字も盛り込まれている》

 医療費を減らすためにお上から言われて渋々する数合わせではなく、あくまで市民の側から「最期まで家で自分らしく過ごしたいから、こんなに病床はいらない」と積み上げた数字であるべきだ。今のお任せ医療のままでは、受け入れ態勢もないまま患者が放り出されかねず、悲劇を生む。

 人は100%死ぬ。まずは自分はどんな最期を迎えたいか、ということから家族と話を始めてはどうか。

 ▼もりた・ひろゆき 内科医。一橋大経済学部を経て宮崎医科大(現宮崎大医学部)を卒業。2009~13年に夕張市立診療所に勤務、12年から所長。現在は鹿児島市の病院に非常勤医師として勤める傍ら、地域医療の研究や講演活動に励む。横浜市出身。


=2017/01/21付 西日本新聞朝刊=

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