介護と子育て 「ダブルケア」の重圧 「一人じゃない」 ネットや電話でつながり

母親(左)の介護と育児の両立に奮闘する島本智恵子さん
母親(左)の介護と育児の両立に奮闘する島本智恵子さん
写真を見る

 晩婚化・晩産化が進む中、介護と育児を同時に担う「ダブルケア」に直面する人が出てきている。精神的、身体的、経済的負担が一気にのしかかり、追い込まれる人もいる。当事者の取材から見えてきたのは行政の支援はもちろん、誰かとつながることの大切さだ。

 母(73)の料理が「おかしく」なったのは、おととし秋。甘いみそ汁や真っ黒な煮物。鍋に保冷剤を入れたときは「子どもが口にしたらと思うとぞっとした」。子どもは物を散らかし、母は違う所に物をしまう。料理を捨て、延々と片付け、夜中も母の行動にアンテナを張る日々。「子どもに怒りの矛先を向けてしまうこともあった」と佐賀県みやき町の自営業、島本智恵子さん(37)は振り返る。

 認知症の母、会社員の夫(34)、長女(9)、次女(4)との5人暮らし。たまっていた感情が爆発したのは昨秋だった。気が付けば「もう無理」と泣きわめきながらケアマネジャーに電話していた。

 その晩は施設が母を預かってくれ、久しぶりにぐっすり眠れた。「困ったときにはプロに頼んでいい」と考えられるようになった。

 ショートステイの定期利用を始め、デイサービスの日数も増やした。自費は月約5万円。会社勤めをしていた母の年金で何とかなっているが、「経済的な問題から思うようにサービスを利用できず、家に張り付くように孤立している人は多いのではないか」と思う。

 ブログ「女三世代 ダブルケア日記@佐賀県みやき町」で、怒りや苦しみも赤裸々につづる。「一人じゃないと分かって励まされる」という反応も多い。そのことに自分も励まされる。

       ◇

 鹿児島県霧島市の山口ひとみさん(39)は、2~13歳の子ども5人がいる。2005年に実父が倒れ、その後、義父と義母の介護も加わった。誰かに相談したいが、そもそも相談に行く時間がない。「インターネットや電話ならつながれる」と考え、15年10月、任意団体「ダブルケア・サポート鹿児島」を設立。ネットや電話で県内の当事者の相談に応じたり、行政の担当につないだりしている。

 実父と義父は他界し、現在は義母を、義母と同居する義妹と介護する。子育て世帯を対象に家事代行業を始め、ダブルケア家庭の家事支援も行う。

 ダブルケアとなってから3人の子どもを産んだのは「未来のことを諦めたくなかったから」。子どもたちは積極的に家事を手伝ってくれる。自立心や優しさも身に付いた。「悪いことばかりではなかった」としみじみ思う。

 ●専用相談窓口、特養基準見直し 自治体や団体も支援

 国の推計では、ダブルケアを行う人は約25万人おり、8割が30~40代という。こうした状況に問題意識を持ち、当事者を支援する自治体や団体も現れている。

 堺市は昨年10月、全国初の専用相談窓口を7カ所設置した。今年2月末までに52件の相談があり、必要なサービスや専門機関につないでいる。

 横浜市は大学などと連携して2015年9月に研究会を発足。育児や仕事で介護できない場合、同居する家族がいても独居の場合と同等に評価するなど、特別養護老人ホームの入所決定基準を見直した。

 同市の一般社団法人「ダブルケアサポート」は、当事者が悩みを語り合う「カフェ」の運営支援や、支援者向け勉強会を開く。相談先などをまとめた「ハッピーケアノート」、体験談集「今、伝えたい」(いずれも324円)を発行。同法人=045(324)5033=に注文できる。

 ダブルケアの問題にいち早く着目し、12年から実態調査を行う横浜国立大の相馬直子准教授(社会政策学)は「ダブルケアという言葉が浸透しておらず、社会の理解は不十分」と指摘。「配偶者や孫のケアなど、ダブルケアの形は多様化している。当事者の約9割が総合的な行政窓口を求めており、当事者に寄り添う支援をしてほしい」と語る。


=2017/04/11付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]