人生を読む「図書館」広がり ヒューマンライブラリー 少数者と対話

聞き手と対話を深めるのぐちあやかさん(左から2人目)
聞き手と対話を深めるのぐちあやかさん(左から2人目)
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 ●聞き手 直接会うから生まれる理解 語り手 自分と向き合い自信がつく

 障害者や性的少数者(LGBT)など、さまざまな立場の少数者(マイノリティー)が、少人数の聞き手に対して自身について語る「ヒューマンライブラリー」(HL)という取り組みがある。話し手を「本」、聞き手を「読者」に例え、聞き手は読みたい本を選ぶように、知りたい人の話を聞く。本物の本と異なりその場で実際に対話でき、互いに理解を深められるのも特徴だ。2000年にデンマークで始まり、国内でも徐々に広がっている。

 先月、福岡市博多区の博多マルイで開かれたイベント。6人のLGBT当事者が「本」として参加した。聞き手には、六つの「タイトル」と、その人を紹介する「あらすじ」のようなリストが配られ、興味がある人のもとに集った。

 「本」の一人、のぐちあやかさん(27)=福岡県久留米市=は、恋愛対象が性別を問わない全性愛者(パンセクシュアル)。タイトルは「幸せな想定外」(1991年発行、27歳、のぐちあやか)-とある。3人の聞き手が参加し、4人は輪になった。

 のぐちさんは17歳までは異性愛を当たり前だと思っていた。体の性と心の性が異なるトランスジェンダーや同性愛の女性と出会い、「自分が好きになるのは異性だけではない」と気付いた。「全性愛というと、よく『誰でもいいんでしょ』と言われるけど、性別にこだわらずに人を好きになるだけ。まずその人自身を好きになって、後から性別が来る感じ」と語ると、聞き手の女性(40)は「『性別で好きな人を選ぶわけじゃない』という考え方には共感するが、個人の考え方の問題なので、人に言わなくていいのでは?」と質問した。のぐちさんは「私は自分を全性愛という枠組みにはめることで人にも説明しやすくなり、自分について語ることで仲間もでき、安心できた」と答えた。

 イベントを主催したLGBT支援団体「グッド・エイジング・エールズ」(東京)代表の松中権さんは「本当の理解は、実際に会って話す中で生まれる。お互いに自分を見つめ直しているのではないか」と話す。1時間ほどの対話を終え、のぐちさんは「知らない人たちに自分の性の話をするのは初めてで不安だったが、発見や元気をもらった」と笑った。

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 HLの始まりは、デンマークの音楽祭。少数者に対する偏見を無くそうと、障害者、LGBT、ホームレス、ヌーディストたちが「本」として自らについて語った。HLは現在90カ国以上に広がり、国内では2008年、京都であった障害者支援のイベントを皮切りに大学や市民団体が行うようになり、昨年には「日本ヒューマンライブラリー学会」が発足した。

 学会理事長で駒沢大社会学科教授の坪井健さんは、HLが支持される理由を「近づきやすさ」とみる。「“図書館”というユニークな設定や少人数形式なので気軽に参加でき、対話により共感が生まれやすい」

 坪井さんら研究者グループは、15~17年に行われたHLで参加者にアンケートを実施。聞き手は話し手に対し、「関心の強さ」と「近づきやすさ」の2項目で、以前より「強くなった」「少し強くなった」と答えた人の合計が、90%を上回った。話し手も「自己開示の大切さ」「生きる希望・勇気」を感じた人が、それぞれ90%以上。坪井さんらは「HLは偏見を低減する効果がある」と分析する。

 長崎外国語大講師の宮崎聖乃さんは13年、「ヒューマンライブラリーNagasaki」を立ち上げ、半年に1度活動を続けている。宮崎さんは「LGBTや障害者、宗教信者などカテゴリーに対し先入観があっても、個人に会うことで確実に見方は変わる。でも一番変わるのは、語り手。人に語ることで自分と向き合い、自信がつく」という。「HLは講演会のように一度に大勢が話を聞けない。多くの人の身近に広がってほしい」と願う。

 8月18日に長崎市立図書館であるHLでは、語り手の集め方や注意点など、企画者向けに運営研修会も行う。午後2時~3時半に研修会、午後4時~7時半にHL。

=2018/05/22付 西日本新聞朝刊=

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