話したいのに話せない…“場面緘黙症”の深い孤立感 国内の認知進まず

「かんもくカード」などを箱に詰める作業をするひろりんさん。場面緘黙症への理解を求めるカードを首から下げている
「かんもくカード」などを箱に詰める作業をするひろりんさん。場面緘黙症への理解を求めるカードを首から下げている
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日常の気持ちを表現している「かんもくカード」
日常の気持ちを表現している「かんもくカード」
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金原洋治医師
金原洋治医師
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 家の中で家族と会話はできても、学校など特定の場面や状況で話せなくなる「場面緘黙(かんもく)症」。不安障害の一種とされるが、「人見知り」「おとなしい」と受け取られて周囲の理解を得られず、孤立している人も少なくない。話したいのに話せない。でも、話したい-。当事者の一人、福岡県飯塚市の「ひろりん」さん(28)は、そんな心の声を手書きのカードにまとめた。見た目では分からないつらさを知ってもらい、社会に理解が広がることを願っている。

 幼稚園に通いだしたころから「人見知りの激しい子」と思われていたという。時間がたっても他の園児と話すことはなく、年長の時に場面緘黙症と診断された。

 彼女を気遣ってくれる友達は「一緒に遊ぶなら右手、遊ばないなら左手を指して」などと声を掛けてくれ、意思疎通していたが、中学1年でぜんそくを患い休みがちになり、不登校となった。

 その後、フリースクールに通い、先生や友人に交換日記で励まされ、高校に進学。家で自分の声を録音して自己紹介や好きな歌手、将来の夢などをクラスメートに伝える工夫もした。ただ、会話はできなかった。

 今も外では他人と話せない。定期的に通院しながら、貝殻の小物入れや傘カバーなどをつくり、筑豊地方のイベントで販売している。外出するときは「笑顔が『はい』の代わりです」「意思表示ができません」などと書いたカードを首から下げる。昨年夏には場面緘黙症を多くの人に知ってもらおうと、カルタ形式の「かんもくカード」を作成した。

 「『む』無視なんてしてないよ だから、しないでね」
 「『や』やっぱり友達大好き 話したいよ」
 「『ゆ』夢は東京行って『ひろりん』で女優デビュー」

 カードは全88枚。言葉にできない気持ちをイラストとともに表現した。「心の中で話してるよ」。そんな思いを込めた。

 作成費は、障害福祉サービス事業所で働いているときに知り合った飯塚市の豊福恵美さん(50)が、インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」を活用して調達した。50セットをつくり、場面緘黙症の認知度を高めるための講演会も計画している。

 カードの購入、問い合わせは豊福さん=090(1360)6504。

 ●「交流増やし、自信つける」 山口の小児科医 金原洋治さん

 場面緘黙症はおよそ150人に1人、多くは幼児期に発症するとされる。「おとなしいだけ。そのうちしゃべるようになる」「過保護、親のしつけがなってない」などとされることがあるが、いずれも誤解で育て方のせいではない。国内では認知が進んでいない。

 脳のへんとう体が生まれつき過剰に反応しやすく不安を感じやすいと考えられているが、発症の原因は明確ではない。成人までに発話できる例が多いが、症状が続く場合もある。うつ病などの2次障害に苦しむ場合も多い。

 経験者は、声を聞かれるのが怖かったり、話そうとするとノドがぎゅっとしまった感じになったりすると言い、想像を超える不安や恐怖が背景にある。症状の程度はさまざまで、目の動きや顔を動かす意思表示をできない場合もある。

 低年齢に受診する程改善しやすい。治療と対応のポイントは、(1)不安の軽減(2)自己評価を高める(3)社会的交流を増やし、自信をつける-。話すようにプレッシャーを与えたり、話さないことを責めたりせずに、筆談などの非言語コミュニケーションを大切にする。「話したい、変わりたい」という気持ちが不安を上回る時が必ずくる。勇気を出して一歩踏み出すことを伝えてほしい。大切なのは、周囲の大人の理解と適切な対応だ。

 支援団体の「かんもくネット」がインターネットで情報提供しているほか、本もある。不安があれば、通級指導教室の教員や小児科医などに相談してほしい。 (談)

=2018/06/20付 西日本新聞朝刊=

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