胃ろう「無意味な延命」の考え根強く リハビリで回復する可能性も

胃ろうについて説明する別府医療センターの松本敏文医師
胃ろうについて説明する別府医療センターの松本敏文医師
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 人生の終わりに近づいたとき、無意味な延命処置は受けたくない-。そう考える人の多くが否定的な「胃ろう」。だが適切に使えば栄養補給の苦痛を和らげ、「意味ある延命」につなげられる。もし自分や家族が胃ろうを勧められたら、どう向き合えばいいのだろうか。

 大分市の男性(78)は、認知症の姉が93歳の時、胃ろうを作るかどうかの判断を迫られた。

 胃ろうは、口から食事を取れなくなったとき、胃に小さな穴を空けて栄養剤を直接注入する「人工栄養」。姉は食が細くなって衰弱し、ほぼ寝たきりだった。幻覚を訴えることもあり、本人が胃ろうを望んでいるかは分からなかった。

 何もしなければいよいよ最期は近い。でも胃ろうを作れば細く長く苦しむかもしれない。医師は「消化器や呼吸器は弱っていない」と説明する。男性が手を握ると、姉はぎゅっと握り返してきた。「体はまだ生きたいと思っているんだ」。思い切って手術を受けさせることにした。

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 人工栄養は他にもある。鼻から胃に管を通して栄養剤を送る「経鼻栄養」や、太い血管から点滴投与する「中心静脈栄養」などで、手術は必要ない。だが誤嚥(ごえん)や感染症の恐れがあり長期の継続は難しい。患者が苦痛から管を抜かないように体を拘束する場合もある。

 一方、胃ろうは局所麻酔の内視鏡手術で、15~30分でできる。医師が1カ月~半年ごとに器具を交換すれば、日々の管理は家族でも可能。自分の消化器官を使うため体調が安定しやすく、1990年代前半から爆発的に普及した。

 「ところが安易な胃ろうによって、『食べられなくなったらおしまい』『ただ生き永らえさせている』という誤解が広がった」と、PEG(胃ろう)・在宅医療学会の松本敏文医師=別府医療センター消化器外科医長=は嘆く。「食べられない」状況や回復の見通しは人それぞれなのに、家族と事前に十分話し合わないケースや、事後のリハビリをしないなど「作りっぱなし」が多いという。

 医療経済研究機構が2012年に調査した1467人のうち、胃ろうを作る時点で再び口から食べられるようになる可能性が「なかった」患者は59%だった。可能性が「あった」患者は24%だったが、そのうちの2割余りはリハビリが行われていなかった。

 日本老年医学会は同年、高齢者の終末期における人工栄養について、始める際は慎重に検討し、差し控えや中止も選択肢とするガイドラインを設けた。欧米でも終末期の胃ろうは控えるのが一般的だ。

 国も安易な胃ろうを抑制しようと、14年度の診療報酬改定で手術の報酬を引き下げ、胃ろうから回復した場合は上乗せするなどの見直しを進めた。だが「無意味な延命」とのイメージは根強く、「胃ろうがあれば回復しそうなのに拒否する人もいる」(松本医師)。

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 大分市の男性の姉は、胃ろうを付け、体力が戻ると「自分で食べたい」とリハビリを始めた。半年ほどで胃ろうを外し、96歳の今は普通食を食べている。幻覚もなくなり、楽器を見て「コントラバス」と言い当てるまでに回復した。最近では次姉(93)が経鼻栄養を始めたが、家族は「この年で手術させたくない」と胃ろうを拒む。男性は「経鼻は苦しいだろうに」ともどかしい思いでいる。

 患者の病状や家族の考え方、経済状況によっても、いろいろな選択肢がある。何より医療関係者と患者や家族がしっかり話し合うことが大切。胃ろうを作った後も回復を目指し、でも場合によっては栄養を減らし、最期を迎える選択肢もある。松本医師は「胃ろうを正しく理解し、作るからには適切な管理を」と呼び掛けている。

 厚生労働省は5年ごとに「人生の最終段階における医療に関する意識調査」を行っている。2017年度の調査では「自身の認知症が進行し、身の回りの手助けが必要で、かなり衰弱が進んできた」場合、胃ろうを「望まない」と答えた人が72.4%に上った。医師や看護師、介護職員はさらに多く9割前後。別府医療センターの松本敏文医師は「胃ろうは悪者というイメージが、医療や介護従事者にまで広がっている」とみている。

=2018/06/21付 西日本新聞朝刊=

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