【「よかとこ」へ心一つ 高齢期のまちで】<7>避難時の助け合い 道半ば

地元の事業者や住民らが参加し、実際に車いすを押しながら避難ルートを確認した「たすけあい訓練」=6月30日午後2時すぎ、福岡市の早良原地区
地元の事業者や住民らが参加し、実際に車いすを押しながら避難ルートを確認した「たすけあい訓練」=6月30日午後2時すぎ、福岡市の早良原地区
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 蒸し暑さに汗がにじむ。6月30日午後、福岡市早良区東入部の早良原(はる)地区。梅雨空の合間、空き地に約40人が集まった。豪雨災害などを想定し、地元の入部校区自治協議会が本年度始めた「たすけあい訓練」。地区(町内会)ごとに開催し、既に2カ所目となる。

 計画を主導するのは、早良区南部の介護事業所などでつくる「さわら南よかとこネット」の一員で、「早良第6いきいきセンター」(地域包括支援センター)の小谷徹さん(36)。地震や水害が各地で相次ぐ中、地域の危機感は高まる一方といい「非常時の助け合いが、いずれは日常的な支え合いにつながれば」と願う。

 ●車いす押しながら

 昨年の九州豪雨を機に、同センターなどは避難に手助けが必要な高齢者や障害者など要支援者の避難先として、地域の介護や医療などの事業所に協力を依頼。その位置を示す地図も作成した。

 訓練ではお年寄りを車いすに乗せ、あらかじめ設定した避難ルートで事業所まで運ぶ。「実際に動いてみて、被災時の課題や改善点を浮き彫りにする」(小谷さん)のが狙いだ。

 早良原地区は、離合さえ難しい急な坂道沿いに家々が連なる。土砂災害の特別警戒区域も含まれ「校区内で最も危険な場所」(同自治協)とみられる。この日は、警戒区域ではない隣の高台の団地まで一度坂道を上り、そこから下った場所にある小規模多機能型居宅介護事業所「なごみの家」まで、参加者が交代で車いすを押しながら歩いた。

 要支援者役を務めた笠考而(こうじ)さん(88)は「50年前に実際に水害があり死者も出た。こういう試みは良いこと」。町内会長の奥村正隆さん(66)は「豪雨の際に現実的には難しいこともある。訓練を通し、地域に防災意識を広められたら」と語った。

 ●絵に描いた餅に?

 訓練後、そのまま公民館で反省会を開いた参加者たち。「ぬかるみや金網の目が大きい側溝ではタイヤがとられる」「担架なども必要では」…。こうした設備面だけでなく、目立ったのは「実際の避難を誰が判断し、関係者に連絡し、行動に移すのか」「要支援者を把握できているのか」など、態勢づくりへの不安だ。

 市は改正災害対策基本法に基づき、2017年度から要支援者名簿の作成に乗りだした。避難支援に生かすため、名簿は「地域」に貸与することになっている。ただ個人情報保護の観点から管理徹底が義務付けられ、手元に持たない町内会長も少なくないという。

 名簿への掲載自体も、本人が必要書類を市に返送する手続きが必要。「手続きがよく分からず、登録していない人も大勢いる」。地元のベテラン民生委員(70)はそう打ち明ける。地区内の住民参加が少なかったこともあり、参加者の一人は「この訓練が、絵に描いた餅にならないようにしなければ」と訴えた。

 ●事前に情報共有を

 6日後、訓練は“本番”となった。西日本一帯を襲った集中豪雨で、早良原地区にも避難勧告が出されたのは7月6日朝。坂道を雨水が覆い、流れていく。1人暮らしの高齢女性2人を、町内会の役員らが車で、なごみの家に避難させた。

 「訓練で顔が見える関係ができていたので」。職員の宮川伸吾さん(39)はそう振り返りつつ、実際の対応の限界も口にする。

 女性の一人は初めての施設に不安げな表情を見せ、午前のうちに日ごろ利用する通所施設に移った。もう一人はなごみの家での宿泊を望んだものの、もともとの利用者の宿泊もあり、最終的には別の施設が受け入れることになった。

 「必要なケアや慣れている通所施設、かかりつけ病院など事前にご本人の情報が共有できていれば、当事者も安心できる避難態勢ができるのでは」‐。

 幸い、地区内で大きな被害はなかった。でも豪雨災害は、また明日にも起こりうる。「より実効性ある仕組みづくり」(小谷さん)へ、リアルタイムの模索は終わらない。

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【ワードBOX】避難行動要支援者名簿

 災害時の安否確認や避難支援に役立てるため、自ら避難することが困難で特に支援が必要な高齢者や障害者について、本人に同意を得た上で地域に提供する名簿。2014年施行の改正災害対策基本法に基づき、全市町村に作成が義務化された。氏名▽生年月日▽住所▽電話番号▽支援が必要な理由‐などを記載。福岡市は提供(貸与)先として「校区・地区の自治協議会と社会福祉協議会、民生委員・児童委員」と規定する。要支援者のうち、同市の名簿提供への同意率は約42%(18年4月1日時点)。

=2018/07/12付 西日本新聞朝刊=

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