【「よかとこ」へ心一つ 高齢期のまちで】<8完>増える空き家 生かす策は

 人の背丈ほどの草が生い茂り、路面に倒れ込んでいた。福岡市早良区南部の住宅街の一角。生え際は、ある一戸建ての敷地内だ。「また今年も伸びとるね」。地元の自治会長(73)がつぶやいた。

 この家には女性が1人暮らしをしていたものの「今は施設に入っておられる」という。1年以上、誰も住んでいないとみられる。

 ●「緊急避難」で除草

 人や車が通りにくい-。近所から連絡を受け、自治会長は昨秋、区役所に相談した。最初は「私有地だからどうにもできない」と言われた。空き家であっても、敷地内の植木などは「個人の財産であるため原則、行政でも刈ることはできない」(市建築物安全推進課)。空き家が各地で増えるなか、市は法律に従い関連する改正条例を昨年4月に施行、所有者自身に適切な管理を強く求めている。

 ただこうした庭木が道路の通行を妨げる場合は、道路の維持管理者として「緊急避難」的に役所が対応するケースも。所有者女性の事情も加味し、最終的には相談を受けて約1週間後、区役所が「除草」した。

 三十数年前に分譲された住宅街。坂道の多い丘陵地だが見晴らしは悪くなく「空き家が出ても、不動産業者が仲介し、新しい入居者がいる」(自治会長)。半面、住民が施設や病院に入るなどして「空き家状態」となる家も数軒、出てきた。

 中には「野生生物のテンが入り込んでいる」と近所から苦情もある。

 ●ぜひ田舎暮らしを

 脊振山麓の早良区脇山校区。幹線道路沿いの農産物直売所にはたまに、空き家を探しに来る人が訪れる。地元の生産者組合長で同校区自治協議会長の重松重興さん(74)は自ら「案内役」を買って出ている。校区内の空き家は、思いつくだけでも20軒以上。定年後のセカンドライフを求める人、あるいは若くても田舎暮らしに憧れる人…。「新しい人に入ってもらい、何とか地域活性化につなげたい」と願うからだ。

 今年3月末、子どもが小学校に上がるという宮崎県の30代ぐらいの男性が訪ねてきた。さっそく山手にある一戸建てを2軒、現地で紹介したものの小学校までは約1キロ半の距離。「やはり不便だったからでしょう」。成約はしなかった。

 一方で借り手が希望しても「やっぱり先祖代々の仏壇があるから」「いつか息子が帰って暮らすかも」と持ち主が拒むことも。将来像は「なかなか描けませんね」と重松さんはこぼす。

 ●介護職員の社宅に

 空き家を何とか生かせないか-。早良区南部の介護事業所などでつくる「さわら南よかとこネット」代表の林隆一さん(43)は、「介護職員の社宅やシェアハウス」にしたり、「介護が必要になっても古里を離れなくてもいいよう、地域の人が集まって、ご飯を作りにきて、みとりまで見守るような拠点」にしたりできないか、と思い描く。

 より都心に近く便利な場所に比べれば現実は厳しい。介護職離れ、買い物などの「足」の確保、災害対策…。同ネットが現在進行形で向き合う、高齢期を迎えた地元のさまざまな課題がそのままハードルとなる。福祉施設に転用するとすれば、消防法などに適合させる設備投資も必要だ。

 だが活動を始めて6年。林さんは不安や葛藤は感じていない。「100人を超える会員が、いろんなアイデアを出して助けてくれる」と実感するからだ。

 代表として、活動を紹介する講演を頼まれることも増えた。同じように事業所同士のネットワークを作る校区も出てきた。

 「やむを得ず地域を離れた方に、よかとこネットがあるから安心だと言って再び地域に戻ってきてほしい。また10代20代の人が介護や福祉に関心を持ち、よかとこネットに入りたいと言ってくれたらうれしい」

 事業所も、行政も、企業も、地域住民も。古里への思いを一つに、それぞれが無理なくできることを少しずつ積み重ねられたら、かなわない夢はないと信じている。

 =おわり

 【ワードBOX】空き家対策

 総務省が5年に1度公表する住宅・土地統計調査によると、全国の空き家数は2013年時点で約820万戸(福岡市は約10万4500戸、うち一戸建ては約1万1800戸)。総住宅数に占める全国の空き家率は13・5%で、50年前の5倍以上となった。

 15年5月に空き家対策特別措置法が全面施行。防災や衛生、景観上の問題がある空き家のうち倒壊などのおそれがある場合は自治体が強制的に解体し、その費用を所有者に負担させる行政代執行も可能となった。

=2018/07/19付 西日本新聞朝刊=

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