児相のリスク評価に問題 目黒の事件 福岡市子ども家庭支援センター所長 河浦龍生さん 親を責めるだけでいいのか 虐待生む背景に目を向けて

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 東京都目黒区で両親から虐待されていた船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=が死亡した事件では、以前住んでいた香川県の児童相談所(児相)と目黒区を管轄する品川児相との連携など、児相の対応に批判が集まった。対策として政府は児相職員の増員などを発表した。福岡市の児相「こども総合相談センター」で20年間、児童福祉司として被虐待児の保護や支援に関わり、現在は市子ども家庭支援センター所長を務める河浦龍生さん(66)に受け止めを聞いた。

 児相は虐待が疑われる子どもについて「一時保護すべきか」「家に帰して大丈夫か」など局面局面でリスクアセスメント(危険性の分析評価)を行う。報道を見る限り、適切なアセスメントができていたか疑問だ。

 香川の児相は2016~17年に2カ月間と4カ月間、一時保護していたのに自宅に帰した。いずれも「口から血を出している」「屋外に放置」と死に直結しかねない危険な状況だった。

 女児は母親が元夫との間に産んだ子で、再婚後に継父の実子が生まれている。経済的にも厳しそうだ。「実子誕生後の連れ子への暴力は、ハイリスクでエスカレートするのが速い」というのは、児相職員の間では定説となっている。2度繰り返された時点で、継父から離すべきだった。

 さらに残念なのは、2度目に家に帰した17年夏以降、医療機関から「あざがある」と2回通告があったのに保護しなかった点だ。その後、「児童福祉司指導」の措置まで解除。18年1月に転居し、地域の見守りの目も届かなくなった。

 引き継ぎ時に認識のずれがあったとされるが、品川児相もファイルを読み込めば注意を要する家庭と分かったはずだ。証拠が乏しく虐待は事件化が難しい中、香川県警は継父を2度も傷害容疑で書類送検した(いずれも不起訴)。それだけ重大性を考慮したということだろう。児相の対応をしっかり検証してほしい。

 事件が明らかになって以来、児童虐待についての講演会で「児相ってそんなに権限が弱いの?」と市民から尋ねられることが増えた。弱くない。児童福祉法や児童虐待防止法に基づき、児相には家庭への立ち入り調査や、親が拒否した場合は裁判所の許可状を得ての臨検捜索が認められている。

 だが、この13年間に起こった虐待死事件(心中以外)636件の4分の1は、児相が関わりながら防げなかった。職員は親との関係悪化を恐れ、権限行使をためらいがちだからだ。目黒の事件もそうだった。

 児相の最大の使命は、子どもの権利を守ることで、「親の権利」ではない。原点に立ち戻る必要がある。

 福岡市では09年に6件の虐待死が相次いだ反省から、職員が親にほんろうされ、子どもの危機を見過ごすことのないよう、児相は11年から弁護士を採用。今は職権保護の担当課長として、子どもの権利擁護を最優先した対応をしている。

 目黒の事件を受けて、政府は児相の児童福祉司を現状の約3200人から22年度までに約2千人増員すると発表した。問題は中身だ。社会福祉を専門に学んだ人を採用する欧米と異なり、日本は教育委員会や税務課にいたような職員が児相に異動になり、予備知識もないまま厳しい環境の親や子どもと接しなければならない。燃え尽きて数年で入れ替わり、専門性が高まらないという悪循環に陥っている。専門職採用や異動スパンを長期化するなど人材育成を徹底してほしい。

 悲惨な事件が起こるたびに、親へのバッシングが繰り返される。ただ多くは、親はその親から同じ目に遭っていたり、手本となる親がいない家庭で育っていたりと世代間で連鎖している。加害者も、社会から見つけてもらえなかったかつての犠牲者かもしれない。目黒の事件も、親の成育歴が影響している可能性がある。

 親を責めるだけでは虐待はなくならない。二度と犠牲者を出さないために、貧困や孤立など虐待が生まれる背景に目を向け、「私は何ができるか」と考えてほしい。

 【ワードBOX】目黒の女児虐待死事件

 3月に東京都目黒区のアパートから「娘が数日前から食事を取らず吐いて、心臓が止まっているようだ」と119番があり、搬送先の病院で船戸結愛ちゃんの死亡が確認された。警視庁は翌日に傷害容疑で父親を逮捕。6月には、保護責任者遺棄致死容疑で父親と母親を逮捕した。結愛ちゃんは死亡時、同年齢の平均体重約20キロを大幅に下回る12キロしかなかった。自宅からは「ゆるしてください」などと結愛ちゃんが鉛筆で書いたノートが見つかった。

=2018/08/10付 西日本新聞朝刊=

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