化学物質を考える<上>過敏症患者 深まる孤立 外来や専門医が足りない

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 住宅の建材や日用品に使われる化学物質は今、国内で約6万7千種が流通し、なお増え続けている。商品の品質を向上させる利点があるものの、中には常温で気体状になり、体内に取り込むと頭痛や目まい、吐き気などに苦しむ化学物質過敏症(CS)を発症することもある。生活や産業と切り離せない化学物質を巡る現状を、3回にわたって報告する。

 福岡県の70代女性は東京にいた約20年前、だるさや発熱、目まいに襲われた。原因が分からず病院を転々とし、CSと診断された。

 CSやシックハウス症候群(SHS)は、建材の接着剤や塗料に含まれる化学物質が原因の一つ。空気のいい九州に移り住んだが、室内の空気が体に合わず、8回ほど転居した。

 今はさらに重症化し、家の敷地外に出ることもできない。外出すると症状が悪化してしまう。ぜんそくを併発したが病院に行けず、訪問診療を利用している。

 家事などを一手に担う夫(70)は「車の排ガス、洗剤や化粧品の香りなど、身の回りの多くのものに体が反応してしまう。この先どうなるか」と悩む。

 同県春日市の女性(63)もCS患者の一人。約20年前、壁紙が張り替えられ、防カビ処理がされた家に引っ越すと、発熱や目の腫れに苦しんだ。今も化学物質の濃度が高いとみられる場所では症状が出る。運転中に意識が遠のいたことも。「体が化学物質のセンサーのようになってしまった」

 燃料や汚れ落ちのいい洗剤、建物を傷から守る塗料、防虫剤、香料…。化学物質の使途は多く、便利な生活を支えている。大量生産できてコストも安い。その陰で、苦しむ人がいる。

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 CSやSHSは1990年代から存在が指摘されるようになった。省エネ対策で住宅の気密性が高まる一方、化学物質が「密室」で気体状になり、不調を訴える人が増えた。合板や壁紙用の接着剤に含まれるホルムアルデヒドが代表格だ。

 厚生労働省はこれを受け、SHS対策としてホルムアルデヒドなど13物質の室内濃度の指針値を設定。2003年施行の改正建築基準法では、ホルムアルデヒドを発散する建材の使用を制限し、シロアリ駆除用のクロルピリホスの使用を禁じた。新築や増改築の住宅で、24時間換気する設備の設置も必要になった。

 そして今、学識者でつくる同省の「シックハウス問題に関する検討会」は、新たに3物質の指針値を設定する議論を続ける。13物質についても一部の指針値を厳しくする方向という。

 国内の研究では、CS患者は70万人に上ると推定されてきた。化学物質過敏症支援センター(横浜市)によると、CSやSHSとみられる体調不良の相談は年間約2千件。担当者は「この問題は決して終わっていない」と警鐘を鳴らす。

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 ただ、こうした患者を支える医療体制は整っていない。専門外来を設ける医療機関は減少傾向にある。

 SHSは04年、CSは09年、保険診療の病名リストに登録され、治療に健康保険が適用されるようになった。国が公的に病気として存在を認めたといえる。

 それでも外来や専門医が増えないのは、治療法が確立していないためだ。現在の対応は原因化学物質から離れ、換気などで室内濃度を下げる環境面の改善が原則。症状が改善しなければ解毒作用のある薬を出す。外来で検査も薬の処方もなく、生活指導だけで終わり、医療機関に入るのが再診料のみのこともある。不採算部門となり、外来が閉鎖されていったという。

 患者は一般の病院を受診しても、医師の認識不足で風邪や更年期障害、膠原(こうげん)病を疑われることがある。発症には個人差があり、家族の理解さえ得られないことも。不調の原因が分からず、周囲の理解も得られずに悩み、孤立を深めている。

 久留米大医学部の石竹達也教授は十数年にわたり、外来でCS患者約40人を診察してきた。今も4人を診ており「医師も正しくCSやSHSを認識し、患者が生活しやすくなるよう対応する必要がある」と語る。

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 【ワードBOX】化学物質過敏症(CS)

 住宅の建材だけでなく、農薬、香料などに含まれる化学物質を一度に大量に取り込んだ際や、微量でも長期間摂取すると発症するとされる。健常者なら問題ない微量の水準でも次第に反応し、頭痛や目まい、呼吸困難、うつ症状などが起こる。シックハウス症候群(SHS)は建材や内装材の化学物質が原因で、SHSからCSに移行する考え方もある。発症メカニズムは解明されていない。


=2018/08/29付 西日本新聞朝刊=

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