余命半年と言われたら…ゲームで考える「最期」 取り組み広がる

「お姫さま抱っこ」される立木勝代さんは、「ユーモアを持ち続ける」が望みだった (「三丁目の花や」提供)
「お姫さま抱っこ」される立木勝代さんは、「ユーモアを持ち続ける」が望みだった (「三丁目の花や」提供)
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もしバナゲームをする参加者にアドバイスする蔵本浩一さん(中央)=12日、横浜市
もしバナゲームをする参加者にアドバイスする蔵本浩一さん(中央)=12日、横浜市
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「もしバナゲーム」で使うカード
「もしバナゲーム」で使うカード
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 もし余命半年と言われたら、あなたは何を大切にしたいですか―。カードゲームを通じて、人生の最期に望む医療や過ごし方について考える取り組みが広がっている。「縁起でもない」と敬遠しがちなテーマについて、元気なうちから気軽に話し合えると好評だ。

 9月中旬、横浜市であった神奈川県看護協会の研修会。4人1組のグループに分かれた参加者の前に、35枚のカードが置かれた。

 それぞれに「痛みがない」「機器につながれていない」などの言葉が記されており、参加者は余命半年と想定して自分が大切にしたいことを選ぶ。その後、なぜそのカードを選んだのかを話し合う。

 「お金の問題を整理しておく」を選んだ女性(46)が「出産で命が危なくなったときに、家族が困らないようにしなきゃと痛感したから」と語ると、他の参加者も「私も家族が心配」「子どもには苦しむところを見せたくない」と共感の声を寄せた。

 米国発祥のこのゲームは「もしバナゲーム」。「もしものための話し合い」を略して「もしバナ」だ。亀田総合病院(千葉県鴨川市)で緩和ケアや在宅医療に携わる医師たちが米国版カードを翻訳。2015年に一般社団法人「iACP」を立ち上げ、ワークショップを開くなどして普及活動を進めている。

    *   *

 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、終末期にどんな医療やケアを受けたいかを、患者本人と家族、医療者が事前に繰り返し話し合っておくプロセスのことだ。死が差し迫った状況では、本人が意識不明などで治療やケアの方針を決められないケースも多く、望まない延命治療につながることもある。

 本人が意思を書面に残す方法もあるが、家族や医師の手元に届かないことや、書いた後に考えが変わることもある。ACPは、話し合いの過程を通じて本人の価値観や信念を周囲が共有していくことが特長だ。厚生労働省は3月に改訂した終末期医療の指針にACPの考えを盛り込んだ。

 iACPの共同代表を務める同病院疼痛(とうつう)・緩和ケア科の蔵本浩一医長は「命にかかわる選択を迫られ、本人の意思が分からなくて家族が困惑する現場に何度も直面した。ゲームが死を意識しない日常の中で『もしも』を考え、話し合うきっかけになれば」と期待する。

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 もしバナゲームは、全国の高齢者施設でも導入されている。福岡市西区の小規模多機能施設「三丁目の花や」もその一つだ。昨年8月、肝臓がんを患っていた立木勝代さん=当時(75)=は病状が悪化し、意思の疎通が難しくなってきていた。「最期をどう過ごしたい?」。スタッフが問い掛けると、立木さんは11枚のカードを選んだ。

 「あらかじめ葬儀の準備をしておく」「ユーモアを持ち続ける」「人生の最期を一人で過ごさない」…。長女の中村悦美さん(40)は「死を覚悟していても、どうしたいかなんてとても聞けなかった。カードのおかげで、遺影の写真をどれにしようという話も自然にできた」と振り返る。

 中村さんは、子どもたちを連れて頻繁に面会に行った。孫と一緒に食事したり、塗り絵をしたり。「母はにこにこして『ありがとう』と何度も手を合わせて。最期は菩薩(ぼさつ)さまみたいでした」。スタッフに「お姫さま抱っこ」してもらったときは、照れくさそうにほほ笑んでいたという。

 2カ月後、家族とスタッフが見守る中、立木さんは静かに息を引き取った。施設管理者の森本剛さん(48)は「本人の意思が確認できたことで、笑顔でユーモアを持って過ごすという立木さんらしさを最期まで尊重できた」と話す。

 カードはiACPのホームページから2千円(送料別)で購入できる。蔵本さんは「自分の価値観に向き合う機会になるので、若い人にもぜひやってみてほしい。ただ、もしものことを考えたくない人もいるため、配慮が大切」と話している。

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 もしバナゲームは、23日午前10時45分から、福岡市南区の東花畑公民館で体験できる。「在宅医療ともしもの話」と題してむらおかホームクリニックの村岡泰典院長が講演し、参加者でゲームをする。

=2018/09/21付 西日本新聞朝刊=

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