潜伏期間は数十年…アスベスト被害者、認定に高い壁 掘り起こし続く

石綿の吹き付け作業を長年続け、肺がんになった男性(手前)。田上玲子さんは被害者の相談に遠方まで出向くこともある
石綿の吹き付け作業を長年続け、肺がんになった男性(手前)。田上玲子さんは被害者の相談に遠方まで出向くこともある
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 アスベスト(石綿)を吸引して健康被害を受けた労働者や家族を支援する「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会福岡支部」が7月から福岡市に常設事務所を設け、被害者の掘り起こしを続けている。石綿による疾患の労災認定は2013~17年度で計約5200件に上るが、潜伏期間が数十年間に及ぶため、体調が悪化しても原因に気付かない人は多い。潜在被害はなお多数あるとみて、支部は労災や国の救済制度の申請を手助けしている。

 福岡市の男性(83)は昨年5月、肺がんの手術を受けた。「石綿で体を壊すなんて昔は思わなかった。悔しいし、歯がゆい」

 戦後に大工になり、10代でビル建設が進む大阪へ。ビルの鉄骨に耐火用の石綿を吹き付ける仕事をした。粉じんで周囲がかすむほどの現場。福岡に戻っても、石綿を含む建材を扱った。

 体に異変が出たのは75歳のとき。せきが止まらず、医師に「肺に石綿があるようだ」と言われた。石綿の仕事をした人の健康診断が年2回無料になる健康管理手帳をもらい、受診を続けたが、肺がんが判明した。

 家族の会に相談すると労災申請を手伝ってくれ、手術前に認定された。男性は「体が悪くなっても石綿が原因と気付かず、労災も『どうせ無理だ』と諦める人は多い。補償を何も受けず亡くなった同僚は、1人や2人じゃない」と言う。

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 石綿被害の補償・救済制度は大きく分けて二つある。一つは、石綿の吹き付けなどに従事した労働者や遺族が対象の労災保険。もう一つは06年施行の石綿健康被害救済法に基づき、労災とされなかった被害者などを救う「救済給付」だ。

 ただ、被害者にとって労災は壁が高い面がある。高齢の元労働者は全国の現場を転々とした人が多い。疾患の潜伏期間が長いこともあり、仮に労災の対象疾病と診断されても、石綿に接触した時期や場所が分からず、勤務先が既に閉鎖していることがある。申請では、石綿業務で健康を害したことを証明する署名を医師と事業主にもらう必要があり、こうした事情が認定を難しくしている。

 家族の会は相談を受けると、まず職歴や病状を聞き、事業主や担当医に署名への理解を求める。本人の記憶が曖昧な場合は年金記録などから事業所を突き止め、当時の同僚に会いに行って石綿の作業状況を証言してもらう。これを文書にし、労災の請求書に添える。

 家族の会事務局の西山和宏さん(56)は「石綿の仕事をした人は早く手帳を取得した上で、会社から勤務記録をもらい、元同僚と連絡を取っておくと申請で役立つ」と呼び掛ける。

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 石綿の健康被害を巡っては、石綿製造・加工工場で働いていた大阪・泉南地域の元労働者などが国に損害賠償を求めた訴訟の上告審で14年、最高裁が国の責任を初めて認定。建設現場の労働者が損害賠償を求めた訴訟でも、地裁、高裁で国やメーカーの責任を認める判決が出ている。司法判断の流れは定着しつつある。

 一方、石綿との関係が深い中皮腫による死者は16年、1550人に上り、1995年から約3倍に増えた。このうち労災や救済給付を受けていたり、遺族が補償されたりしたのは約6割。一定数は救済されず亡くなった人とみられる。

 石綿は70~90年に大量輸入され、潜伏期間を考えると患者はさらに増える恐れがある。家族の会によると、医師が肺がんの原因を喫煙と判断し、石綿の疾患と気付かないことがあるといい、医療面の課題も残る。

 家族の会福岡支部の世話人、田上玲子さん(58)は自身も父を石綿による中皮腫で失い、会の支えで労災認定を受けた。「石綿の疾患は自分で職歴を医師に言わないと見つけるのが難しい。救済されていない人は多く、早期治療のためにも相談してほしい」と語る。

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 福岡支部は福岡市博多区博多駅前1の18の16博多駅前1丁目ビル202号。平日午前11時~午後3時は会員が無料相談を受け付ける。電話相談も応じる。同支部=092(409)1963。

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 【ワードBOX】アスベスト(石綿)

 微細な繊維状の天然鉱物。耐火性に優れるため建築材料に広く使われた。労災と救済給付の対象疾病は中皮腫(潜伏期間20~50年)、肺がん(同15~40年)、石綿肺(同15~20年)など。労災は医療費が無料になる療養補償や、給料の8割分が支払われる休業補償、遺族補償などがある。救済給付は医療費の無料措置や月額約10万円の療養手当、遺族補償などがあるが、給付水準は労災より低い。

=2018/10/31付 西日本新聞朝刊=

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