児童相談所の課題<上>人材育成 増員で埋められない「質」

大分県の中央児童相談所には「どこでもドア」と呼ばれる家庭訪問の研修用模擬玄関がある
大分県の中央児童相談所には「どこでもドア」と呼ばれる家庭訪問の研修用模擬玄関がある
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 3月、東京都目黒区で5歳の女児が虐待死した。転居によって香川県、東京都の両児童相談所(児相)が関与しながら死を防げなかったため「目黒の悲劇を起こさないために」という掛け声の下、児相の改革を求める声も上がる。11月は児童虐待防止推進月間。年間13万件超の虐待対応に追われる児相の課題を考える。

 2022年度までに児童福祉司を約2千人増員し、1人当たりの担当件数を40ケース相当にする-。目黒の事件を受け、政府は7月、緊急総合対策を発表した。柱は「人材」だった。

 対策は、虐待通告から48時間以内に面会などで安全確認ができなかった場合、児相が立ち入り調査を実施するとともに、警察との情報共有を進めることをルール化するとした。これらを実行するにも人が要る。

 この対策に盛り込んだ「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」の骨子によると、現在の児相の1人当たり業務量は約50ケース。都市部では100件近くを担当する職員も珍しくない。専門家は、目黒区の事件のような「虐待疑いのある子どもが在宅しているケース」は特に注意が必要で、1人20~30件程度が理想と言う。

 数でみると、増員すれば1人の担当数が減り、判断ミスを減らせるように思える。しかし現場からは「増員だけでは解決しない」との声も上がる。

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 児童福祉司の仕事は、家庭の抱える問題を解決に導く「ソーシャルワーク」。貧困、親の成育歴、地域からの孤立、夫婦間のトラブル、子どもの障害など、複雑に絡み合った問題から、子どもの虐待のリスクを見立て、解決に向けて支援する。こうした技量は「現場で職務を実行しながら身に付けるしかない」と児相関係者は口をそろえるが、その経験豊富な児童福祉司が育たない、という長年の課題がある。児相以外への異動でキャリアが断たれるのだ。

 児童福祉法などでは、5年ほどの児相勤務経験がある児童福祉司を、指導的立場のスーパーバイザー(SV)として「5人に1人は配置する」としている。しかし熊本、鹿児島両県や熊本市など、基準を満たせていない児相もある。熊本県中央児相は「職員が3年ほどで異動となるので、5年の経験を積ませるのが難しい」と説明する。増え続ける虐待通告に追われ、子どもの命に関わる重責がのしかかるため「勤務継続を希望する職員はめったにいない」(九州のある児相幹部)実態もある。

 児相の相談に応じる「子どもの虹情報研修センター」(横浜市)の小出太美夫(たみお)専門相談室長は、経験ある職員を増やせない環境下で、経験ゼロの職員を増やせば「育成にさらに人手が必要になり、現場がエアポケットのような状態になるのではないか」と懸念する。

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 こうした悪循環を打破しようと、各児相も模索している。鍵は「連携」だ。

 福岡市は12年から、夜間の泣き声通告の安全確認をNPO法人に委託している。泣き声通告は緊急でない場合も多く、児童福祉司は負担が減り、深刻な案件に集中できるようになった。ただ、安全確認を委託しているのは全国で5件のみ。児童福祉司1人が100件ほどのケースを抱える北九州市は「誰にでも任せられる仕事ではなく、適任団体がない」と難しさを漏らす。

 大分県は、手作りの玄関を使った家庭訪問の模擬訓練を、市町村担当者にも頻繁に行っている。職員の技量向上とともに、市町村の対応力を上げ、軽度の案件を任せるのが狙いだ。他にも、生活保護のケースワーカーや保育士、教員を児童福祉司として配置するなどの人事上の工夫をしているところも多い。

 5年後10年後には、増員が功を奏してベテランが育ち、理想の体制になるかもしれない。その過渡期をどう乗り越えるか-。

 小出室長は、現場で育成に時間をかけられない分、虐待死亡の後に出される検証報告で学ぶ重要性を指摘する。目黒の事件でも検証報告が出され、女児の家庭に対するアセスメント(分析評価)にミスがあったと指摘。しかし、(1)児相職員の資質向上(2)転居に伴うケースの確実な引き継ぎ(3)妊娠期からの継続的な支援-などの提言は、これまでの報告の域を出ない。

 小出室長は「ケースが100通りあれば背景も100通り。経験の浅い職員には検証報告が経験値代わりになるので、国は加害者である親の成育歴までさかのぼるような詳細な検証を実施して公開すべきだ」と話す。 

=2018/11/09付 西日本新聞朝刊=

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