包丁振り回し、首を絞める父…虐待の記憶今も 苦しむ女性の訴え

当事者らがケアの大切さを訴えたイベント=福岡市
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「子どもの権利がないがしろにされている」と話す今一生さん
「子どもの権利がないがしろにされている」と話す今一生さん
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 親から虐待を受けて育ったかつての子どもたちの立場から、被害の実態を見つめるイベント「虐待サバイバーと社会、新しい明日を生きる」(NPO法人アコア主催)が10日、福岡市で開かれた。「親元を離れても苦しみは消えない」。30~50代となった福岡県の女性3人は今なお癒えない心の傷を語り、長期にわたるケアの重要性を訴えた。3人の発言要旨を紹介する。

 ●包丁を振り回す父 男性の声におびえ

 思い出すのは、父が家族に向かって包丁を振り回し、首を絞めていた光景という。30代の女性は、体を震わせながら語った。

 幼いころから父の暴力が吹き荒れる不安定な家庭で育った。保育園の年長の時には、父の日向けのお絵かきで、似顔絵や「おとうさんだいすき」と描くことに抵抗があった。小学生になると、男性教師が生徒を注意する声を聞いただけで体が冷たくなったりと、大人の男性の大きな声におびえるようになった。中学時代から学校を度々休むようになり、過食症に苦しみ、リストカットもした。

 心療内科では「あなたみたいに真面目な人はそういうことをしやすいのよ」と言われただけ。家庭の問題まで掘り下げて聞かれることはなかった。

 高校卒業後は仕事を転々とした。カウンセリングやセラピーを受け続けたが生きづらさは消えない。20代後半で虐待が原因と自覚し、親と関係を断った。

 「過剰にびくびくしたり、自分を傷つけたり、体重が極端に減ったり。理由もなくそうなる子どもはいない。身の回りにそんな子どもがいたら気に掛けてあげてほしい」

 ●罵倒されてばかり 預けられたかった

 「虐待は生きづらさという、見えない大きな後遺症を残します」。30代の女性は原稿に目を落とし、淡々と話し始めた。

 両親に褒められたり心配されたりした記憶がない。あるのは怒られた記憶だけ。理由を尋ねると「そんなことも分からないのか」と罵倒された。「私が悪い」と思い込み、親が気分を害しないよう常に顔色をうかがうようになった。結果、自分の感情がまひしてしまった。「笑ったり泣いたり要求したり、子どもらしく振る舞うことを奪われた」

 職場で分からないことがあっても質問できない。不機嫌な人を見ると、自分のせいと思い込んだ。過食、性依存、高い買い物…。何かに依存することで慰めた。うつ病、適応障害、双極性障害と診断された。

 「親が子を育てなくてはいけないというのは思い込み。できないのなら早く手放して、施設でも親戚でも知り合いにでも預けてほしかった」。両親への思いで締めくくった。

 ●薬では改善しない 十分に心のケアを

 2歳で女性実業家の養子になった50代女性は、髪の毛をわしづかみにされ、木刀で殴られ続けた。悲鳴を聞いた近所の人たちは「あんなにひどいことをしなくてもね」と陰で慰めはしても、助け出してくれなかった。

 家を出た後、19歳のとき精神科で解離性障害、うつ病と診断された。だが5回の入院を含めて約30年間通い続けたが、症状は良くならなかった。昨年、虐待防止に取り組む団体の回復プログラムに出会い、「自分を客観視できるようになり、つらい過去に向き合えるようになった」という。

 「虐待を受けて育った人は、投薬治療だけでは改善しない。根底にあるトラウマ(心的外傷)のケアが必要」と強調した。

 ●「保護者や環境は子どもに選択権を」 フリーライター 今一生さん

 虐待を受けて育った人たちを取材し続けるフリーライター今一生(こんいっしょう)さん(53)の講演もあった。親権が壁になって虐待家庭から救い出すのが難しく、保護しても多くが施設入所となる現状を問題視。「子どもの命や権利が軽視されている。子ども自身が保護者や生活環境を選べる権利を保障すべきだ」と訴えた。

 今さんは約30年前から児童虐待や若者の自殺問題に関わり、当事者らと交流を続けてきた。昨年10月、虐待を受けた100人の手記を「日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?」=写真=にまとめた。

 今さんには、児童養護施設で暮らす子どもたちから「抜け出した」とSOSが入ることがある。里親が少ない日本では、児童相談所が子どもを保護すると、施設入所など行き先が限られている上に子どもに決定権がなく、「一方的な支援ではないか」と疑問視。施設の子どもの大学などへの進学率は12・4%と、一般家庭の場合より約40ポイント低く「理不尽に将来設計の選択肢を奪われている」と指摘した。

 解決策として、親権を複数の大人でシェアする仕組みを提案。「親権を持つ大人が複数いることで、互いに監視でき、養育費や教育費の面でも子どもにとって頼れる大人も増える。一定年齢に達した子どもが主体的に親を選べるようにすれば虐待抑止につながる」と持論を展開した。

=2018/11/20付 西日本新聞朝刊=

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