「主婦のくせに」DV、女性3人に1人が被害…防止へ注目される加害者プログラム

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RRP研究会 信田さよ子代表理事
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 成人女性の3人に1人が被害を受けたことがあるとされるドメスティックバイオレンス(DV)。シェルターや別居手続きを紹介するなど女性を男性から“逃がす”対策が中心で、男性に働き掛ける防止策は手薄だ。そんな中、適切な夫婦関係を築くために、誤った考え方に気付かせる男性向けの加害者プログラムに注目が集まっている。

 「なんで飯を作ってないんか」「何時に帰ってきた」「それならできるだろ」「何とか言ったらどうだ」-。夫役のスタッフに次々問い詰められ、妻役の男性は押し黙り、うなだれた。「確かにこれでは何も言えなくなりますね…」

 長崎県内で行われたロールプレー。妻役の男性は、かつて妻に同じ言葉を投げつけた。逆の立場になって、自分の行為はDVだったと気付いたという。

 長崎市の市民団体「ながさきDV加害者更生プログラム研究会」が開く18回講座の一こまだ。カナダでの実践例を基に開発されたNPO法人RRP研究会(東京)の認知行動療法プログラムを用いた。DVを行った30~50代の男性3人が受講している。DVの定義や影響を知って自分の思考パターンに気付く座学や、相手を尊重したコミュニケーション方法を学ぶロールプレーなどを週1回、5カ月間受ける。

 典型的なDVは、「俺が食わせてやっている」「主婦のくせに」といった男尊女卑や性別役割分業の考え方が根底にある。長崎の会代表の宮本鷹明さんは「支配ではなく尊重した関わり方を」と訴える。

 内閣府の2017年の調査では、DVを受けたことがある成人女性は31・3%。うち7割が離婚や別居などをせずに別れない選択をしていた。理由は「子どもがいるから」「経済的な不安」が多く、離れたくても離れられない女性が一定数いることがうかがえる。

 行政の施策は、切迫した状態の被害者を逃がすことに力点が置かれている。「別れず関係改善を目指す夫婦向けの対策は少ない。加害者プログラムの需要は大きい」と市民団体はみる。

 ただ、こうしたプログラムの多くは民間頼みで安定した運営に課題もある。熊本市の「熊本DVアプローチ研究会 り・まっぷ」が主催していた講座は熊本地震の影響で休止。来秋以降に再開したいが「マンパワーと資金面が課題」という。鹿児島市の「らそ」は来年6月の開始を目指して準備しているという。

 福岡県では講座は開かれておらず、福岡市男女共同参画推進センター・アミカスは「『講座を受けたい』との相談もあるが紹介先がない」。DV対策を所管する内閣府は「海外の実践例を研究している段階」とし、まだ国として導入を打ち出す状況にはないという。

 かつて市民団体代表として加害者プログラムを行った佐賀県DV総合対策センター所長の原健一さんによると、参加者の中には、妻に言われて離婚を回避するために不本意ながら受け、途中でやめてしまう男性も少なくない。まず男性に「自分の問題」と自覚してもらう必要があるという。

 プログラムはRRPの他にもさまざまな団体や個人が取り組んでいるが、内容や方法がまちまちで国内での効果も未知数だ。「日本ではどんな手法が効果があるのか検証し、汎用(はんよう)性あるプログラムを開発する必要がある」と指摘する。

 ●自らを振り返り、学習することで防ごう RRP研究会 信田さよ子代表理事

 講演で福岡市を訪れたRRP研究会の信田さよ子代表理事(臨床心理士)にプログラムの意義を聞いた。

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 2004年以降、加害者の男性約180人が当会のプログラムを受講した。効果を裏付ける海外の調査結果は多々あり、当会でも少なくとも受講中の5カ月間はDVの再発はない。

 DV防止法は被害者保護と予防ばかりで、加害者対策の視点が欠けている。被害者は、加害者から逃げても人間関係や家など失うものだらけ。加害者は家族以外は失わず不公平だ。加害者対策に積極的に取り組んでいないのは先進国の中で日本だけだ。

 DVの末に妻を殺害した人たちのインタビューをまとめたカナダの研究で、ほぼ全員に一致していたのが「殺害前に誰かに相談したかった」ということ。DV対策の関係者には加害者を怖がり遠ざける人もいるが、根本的解決には加害者へのアプローチが不可欠だ。

 当会の参加者の8~9割は子どもの頃に親のDVを目撃している。家族との良好な関係は、経験し学習して積み上げるもの。世代間連鎖を防ぐため、結婚や出産を機に自分の成育歴を振り返り、心配な場合は講座などで練習することで、ある程度防げるのではないか。

=2018/11/27付 西日本新聞朝刊=

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