包み込む社会へ 私の提案2018<中>障害者雇用水増し 制度にこだわらず知恵を絞ろう 桑原由美子さん NPO法人理事長

桑原由美子さん NPO法人理事
桑原由美子さん NPO法人理事
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 《今年発覚した省庁や自治体の障害者雇用水増し問題。政府は来年1年間で約4千人を採用する方針を早々に表明した。正規職員の障害者枠を巡り、これまで対象が身体障害者に偏っていた九州の自治体でも、知的や精神障害者に拡大する動きが広がる》

 今回の問題を受け、企業や自治体が、一定の割合以上、障害者の雇用を義務付けられている「法定雇用率」さえ達成すればいいと、数字だけを目的にしてしまわないか心配している。ノウハウや環境が整わないうちに性急に雇用を増やしても、仕事が長く続かなかったり、体調を崩してしまったりする可能性が高い。

 《雇用率に絡む障害者雇用の対象には4月から、発達障害を含む精神障害者も加わった。NPO法人「発達障がい者就労支援ゆあしっぷ」は、福岡県が運営する障害者職業能力開発校から委託を受け、発達障害など障害のある人に対し、職業訓練や就労活動支援を行っている》

 障害の特性によっては集中力が続かなかったり、仕事内容をよく理解できないまま雇用され、場にふさわしくない振る舞いをして周りから不真面目やわがままに見えたりすることがある。障害への理解や知識が雇用側に求められている。

 人手不足が深刻だが、どんな仕事を任せるのかあらかじめしっかり決めた上で雇用し、丁寧にマッチングしていけば、障害のある人が「戦力」になることを分かってほしい。

 ただ雇用率に算定されるのは週20時間(1日4時間)以上働ける人だけ。例えば1日2~3時間なら集中して働ける人は少なくない。今の雇用制度ではハードルが高い人もいる。

 《同法人は、障害のある人などの働き方として、法定雇用の時間にこだわらない「超短時間雇用」を提唱している東京大准教授の近藤武夫さんを招くなど、勉強会を重ねている》

 例えば、私が職業訓練に関わった中で、タイピングがとても速く能力の高い男性がいた。彼は時給制のパートで就職したが、仕事が速くてその日の分はすぐ終わってしまう。

 障害のない人の場合、その日のノルマが終わればだらだらと時間を過ごせるだろうし、同じ分量の仕事を終えるのに1日かける人もいるかもしれない。でも障害の特性によって「漫然とだらだらできない」人は少なくなく、彼もそうだった。結局、仕事が終わった時点で「帰っていい」と言われるようになった。

 仮にこの会社が時給800円で1日8時間雇えば日給6400円。しかし彼が3時間で終わって帰れば2400円しか支払われないことになる。同じ内容の仕事をさばき、障害のある人の方が効率も高いのに、単純に時間換算されたら、こうした不公平が生まれる。

 1日何時間雇う、という時間制ではなく、例えば「一定の資料のタイピング」「ある部屋の清掃」など、通常業務から障害のある人でもできる仕事を仕分けし、職務をしっかり定めて雇うのが超短時間雇用の考え方。近藤さんによると既に川崎市、神戸市などで実践例があり、海外ではこのように職務定義をはっきりさせた「ジョブ型」が一般的という。私も、障害のある人の雇用にはジョブ型が合うのではと考えている。

 今回の問題を機に、従来の制度にとらわれない雇用の在り方について、社会全体で知恵を絞っていくべきではないか。

 《自身の娘(25)も発達障害があり、放送関係の会社で働く》

 障害のない人には自然と身につく日常のマナーやルールも、発達障害のある人は一つ一つ教えてもらって初めて理解し、社会に適応していける。「言わずもがな」の事柄を根気よく指導していく姿勢の大切さも企業側には理解してほしい。

 最近、娘が仕事から機嫌良く帰ってくる。判で押したような単純作業ばかりではなく、新しい仕事を少しずつ任されるようになり、「難しいけど頑張ったよ」と言って、自信がついてきたように見える。周りの方から認めてもらっている、承認されることの大きさをしみじみ感じる。

 障害がある人、とひとくくりで支援していくのではなく、あくまで一人一人が力を発揮できるように配慮し、支えていく仕組みが整うよう、今後も声を上げていきたい。

 【メモ】
 障害者雇用水増し問題は今年8月に発覚。中央省庁が職員に占める障害者の割合を計算する際、本来は対象外の人を加え、法律で定められた雇用率を達成しているように見せ掛けていた。弁護士らによる検証委員会は、国の指針に反する不適切な計上が、昨年6月時点で28機関の3700人に達し、退職者や死者を加えるなど恣意(しい)的な運用があったと認定。政府は10月、厚生労働省の行政機関に対するチェック機能強化などの再発防止策と、2019年の1年間で約4000人を採用する計画をまとめた基本方針を決定した。

 ▼くわはら・ゆみこ 1965年生まれ。発達障害のある子どもを持つ親が立ち上げたNPO法人「発達障がい者就労支援ゆあしっぷ」(福岡県春日市)理事長。就労や自立を支援し、理解を深める活動を続ける。

=2018/12/26付 西日本新聞朝刊=

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