包み込む社会へ 私の提案2018<下>児童虐待 「社会のネグレクト」をなくそう 大谷 順子さん NPO法人代表理事

大谷順子さん NPO法人代表理事
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 《3月、東京都目黒区で両親から虐待を受けていた5歳女児が死亡した。女児のノートに「もうおねがい、ゆるして」とつづられていたニュースは全国を駆け巡った。2017年度の児童虐待相談件数は過去最高の約13万4千件。18年上半期も、警察から児童相談所への虐待通告が前年同期比を上回るなど、深刻な状況が続いている》

 親の成育歴、家族構成、困窮など、家庭が背負うさまざまな負の要素のしわ寄せが、子どもに行くときに起こるのが虐待。そのため家庭支援が大切だと言われているが、「親の自己責任」と追い詰められていく家庭を社会が見て見ぬふりをしているのではないか。これは「社会の子どもに対するネグレクト(育児放棄)」だ。

 目黒区の事件も、心配な家庭だ、と気付く周囲の人はいなかったのか。事件を「ひどい親元に生まれてかわいそう」「児童相談所は何をしていたのだ」で終わらせようとしてはいないか。「子どもを二度とそんな目に遭わせてはいけない」という感覚が、市民の中で育ちきれていない気がする。

 その感覚の根拠になるのは、日本も批准している国連「子どもの権利条約」だ。子どもには、人として生存する権利、発達する権利、教育を受ける権利がある。それは、どんな環境に生まれても保障されなければならない。

 《警察庁が3月に発表した17年の自殺者数は2万1321人で減少。しかし年齢別では19歳以下だけが増加し、47人増の567人だった。子どもの自殺は夏休み明けが突出している現状もある》

 子どもの自殺が増える国は「子どもが幸せな国」とは言えない。子どもの自殺が報道されるたびに胸が苦しくなるが、最近は「またか」と思われてはいないだろうか。社会が、子どもの気持ちに鈍感になってはいないか。

 「死んだ方が楽だ」と子どもに思わせている環境を変えるには行政任せではなく、市民の力が必要。機運を高めて、政治や行政に呼び掛けていかなければならない。

 《子どもに関わるNPOをつなぐ「子どもNPOセンター福岡」の代表を務めながら、親と暮らせない子どもが里親と暮らす「子どもの村福岡」を開設するなど、福岡の子どもに関する活動を長年見つめてきた》

 目指すべきは「子どもにやさしいまち」。そのためには、まずは子どもの権利を広めることが重要だ。福岡県では宗像市や志免町など「子ども条例」を作って推進しようという自治体もある一方、「権利ばかり訴えるのは甘えではないか」という声も上がる。「子どもの権利」は、すべての子どもが生まれながらにして持つ固有の権利のこと。それを伝え広めていくことが大切だ。

 また子どもの権利を守る活動は、行政と専門性の高いNPOとが協働することで、より効果を高められる。例えば福岡市は、里親に関するPRをNPO法人に委託し、里親委託率を格段に伸ばした。

 《子どもの権利を守るために、これから必要なことは》

 国連子どもの権利条約が採択されてから来年で30年。「社会の子どもに対するネグレクト」をなくす動きの一つとして、最近「アドボケイト(代弁者)」という役割が注目されている。子どもは自分の意思を持っているし「意見を表明する権利」もあるが、それを発する言葉を大人ほど持たない。そこで大人が代弁者となって、子どもの声を社会に届けようという動きだ。目黒の虐待事件で、女児の悲痛なSOSが社会に届かなかったことから、その動きが加速している。

 これは虐待に限らず、いじめ、貧困、学校や部活動での体罰など、子どもを取り巻くさまざまな問題を解決に導く鍵になる。この代弁者を今後多く養成し、その人々が活躍できるシステムをつくっていくことで、子どもの声に敏感になる人が増え、地域が子どもに敏感になっていく-という流れをつくっていきたい。

 【メモ】
 3月、東京都目黒区で5歳の女児が両親の虐待により死亡。5歳児の平均体重が20キロなのに対し、女児の死亡時の体重は12キロしかなかった。2カ所の児童相談所が家庭と関わりながら虐待死を防げなかったことから、国は7月、児童福祉司を2000人増やすことや、児相と警察の情報共有の徹底などを盛り込んだ緊急総合対策を決定した。2017年度、児童相談所が児童虐待の相談や通告を受けて対応した件数は過去最多の13万3778件(前年度比9.1%増)。16年度に児童虐待によって死亡した子どもは49人、心中も含むと77人に上った。
 
 ▼おおたに・じゅんこ 1935年生まれ。子どもに関わる団体をつなぐNPO法人「子どもNPOセンター福岡」(福岡市)代表理事。相談電話「チャイルドライン もしもしキモチ」や、里親と子の居住群を運営する「SOS子どもの村JAPAN」の設立にも携わった。

=2018/12/27付 西日本新聞朝刊=

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