【それっていくら?】<1>一体感 かけがえのない、この瞬間

「クイーン」のTシャツに、自作の缶バッジで埋まったかばん
「クイーン」のTシャツに、自作の缶バッジで埋まったかばん
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今は浜田さんの下で暮らすゆなちゃん
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 長年のファンではない。バンドメンバーの顔入りTシャツを着て、自作の缶バッジを16個もかばんに付けているけれど。1800円の入場料を4回も払ってきたけれど。マキさん(28)=仮名=は「拍手や歓声から、同じ会場にいる人たちみんなと『これが好き』と分かり合えるのがうれしい」のだ。

 昨年公開されヒット中の映画「ボヘミアン・ラプソディ」。伝説的バンドのクイーンを描いた作品で、「応援上映」が話題になっている。指定された上映で観客はペンライトを振り、大声で歌える。「今日はシャイな人が多かったかな」。観客と一緒に雰囲気をつくり上げるので、何回参加しても同じ回は一つとしてない。シン・ゴジラ、アベンジャーズ…。マキさんは数々の映画を「応援」してきた。「ボヘミアン~」は予告編で知り、クイーンに興味を持った。

 一緒に参加した友人エリさん(33)=同=は5回目の観賞。「私が観客を先導しなければ」。そんな気合から、手拍子に力が入る。リピーターだからこそ応援上映の楽しさを伝えたいと使命感に燃える。

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 生活者の消費行動を分析する博報堂生活総合研究所は、こうした「ひとときの連帯感」を求める行動を「トキ消費」と名付ける。同じ志向を持っている人と、その時、その場でしかできない体験を共有し、盛り上がりに貢献する。

 主席研究員の夏山明美さんは「背景にSNS(会員制交流サイト)の普及がある」と分析する。SNSにあふれる他人の体験を見聞きすることで自分も体験した気分になり、より非日常的な、珍しい体験を求めるようになっている。「SNS疲れし、煩わしい人間関係は嫌だが1人も嫌、という需要もある」と言う。

 ネット上で趣旨に賛同した人が寄付するクラウドファンディング(CF)も、トキ消費の一つだ。

 あるCFサイトに「蛍丸伝説をもう一度!」というプロジェクト名が掲げられた。蛍丸とは、阿蘇神社(熊本県阿蘇市)に安置され、戦後所在が分からなくなった刀。プロジェクトはその刀の復元を目指し、目標額550万円に4512万円が集まった。刀剣にちなんだキャラクターが活躍するゲーム「刀剣乱舞」の人気が追い風になった。

 蛍丸には不思議な伝説がある。合戦で刃こぼれした後、持ち主は無数の蛍が刀に止まる夢を見る。翌朝、美しい姿に戻っていた-。「蛍の一匹になりたく応援させていただきます」。サイトには3千件以上のコメントが並んだ。「一匹の蛍」たちが復元を実現した。

 「刀剣乱舞」の制作を手掛けるニトロプラスの小坂崇氣社長は、自らも270万円寄付した。「復元にかける刀工の思いや、共感する仲間が大勢いるという一体感がファンの心を打った。名刀復元という歴史をつくる体験に関わりたいとも思ったのではないか」

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 トキ消費が広まった背景の一つに、夏山さんは2011年の東日本大震災を挙げる。今この瞬間を大切にしたい、という意識が多くの人に生まれてきたとみる。

 「出会い、デートし、同居して結婚する。普通の恋愛と同じですよ」。北九州市の会社員、浜田憲治さん(39)は愛犬のゆなちゃんをなでてほほ笑んだ。

 4年前、犬カフェをやっているペットショップに赴いた。仕事や私生活で悩む中、自由に過ごす犬たちの姿を見て和んだ。

 ある日、ゆなちゃんに一目ぼれする。半年通ってようやく信頼関係ができたと感じた。レンタルサービスを利用し、休日のたびに散歩したり自宅で過ごしたりした。

 「レンタルは気軽でいい」と思っていた頃、カフェで気に掛けていた子犬が亡くなった。命は終わる。それぞれの犬が見せる表情やしぐさはかけがえのないもの。もっと同じ時を過ごしたい。レンタルから「所有」へ心が動いた。

 今、朝5時にゆなちゃんに起こされる。餌や服、カット代など月2~3万円はかかる。仕事中は遠隔操作で室温を調整し、カメラでいつでも確認できる。

 知人から「セレブ犬」とやゆされることもあるが、「かけがえのない時を僕と過ごしてくれてありがとう」。感謝を胸に、共に生きる。

      ◇

 平成ももうすぐ終わり、新元号になる。秋には消費税も上がる。新しい時代、あなたは何にいくら払いますか。あなたが思う価値、「それっていくら?」。

=2019/01/08付 西日本新聞朝刊=

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