【それっていくら?】<4完>寄付 私の意思をつなぎたい

屋台「けいじ」の安部雄太さん。タブレット端末のQRコードから仮想通貨で寄付できる
屋台「けいじ」の安部雄太さん。タブレット端末のQRコードから仮想通貨で寄付できる
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 「保留ラーメン始めました」。福岡市内のラーメン屋台「けいじ」の店内に張られたポスターを見て、多くの客が「これ、何ですか?」と尋ねる。

 カフェでコーヒーを注文する際、誰かのためにもう1杯分のお金を寄付する「サスペンデッド(保留)コーヒー」。イタリアが発祥とされ、欧米を中心に広まっている。

 店長の安部雄太さん(33)は数年前、この取り組みを知った。「ラーメンでもやれる」と昨年3月から始めた。趣旨を説明すると、多くの客は賛同する。ラーメンを食べないのに1杯分の650円を払ってくれる人、「お釣りは取っておいて」と言う人もいる。貧困など子どもが抱える困難が気になる安部さんは「子どもたちにはおなかいっぱい食べてほしい」。12歳までの客に保留ラーメンを無料で振る舞う。

 支払いは仮想通貨の「NEM(ネム)」でも受け付ける。仮想通貨は国境を軽々と越え、寄付は外国からも届く。メッセージを添えて送金できるのも特徴だ。

 「とても素敵(すてき)なプロジェクトですね」「少量ですが、お納めくださいな」「いくで。やるで。ラーメン替え玉や」。送金履歴には、楽しげな共感の言葉が並ぶ。

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 「居ても立ってもいられなかった」と福岡市のトモコさん(50)=仮名=は振り返る。2011年の東日本大震災。仕事があり、現地には行けない。もどかしくてパソコンで検索していたら「ポイント寄付」ができることを知った。ポイントなら今すぐ、手軽にできる。クレジットカードなどにたまったポイントをかき集め、約2万円分を送った。画面には全国から集まったポイント数が現れ、数字は刻々と増えていく。「自分もその一部になった」と実感できた。

 インターネットの普及は寄付の形を大きく変えた。現金から仮想通貨、ポイントなどキャッシュレス決済へ。手段が多様化することで、寄付のハードルが下がっているように見える。

 お金を払わない「0円寄付」もある。福岡市の大学生リサさん(21)=同=は毎年3月11日、ヤフーサイトで「3・11」と検索する。東日本大震災が発生した同日に合わせてヤフーが行っている企画。検索するだけで1人につき10円がさまざまな団体に贈られる。昨年は約4千万円がヤフーから復興支援団体に届いた。

 リサさんは街頭募金を見掛けると必ず協力する。寄付するのは数百円程度でも「多くの人が寄付すれば大きな力になるし、自分がその一部になれると思うとうれしい」。0円寄付も「自分の気持ちが届けられてうれしい」。その二つの気持ちに変わりはない。相手とつながっている、という意味では同じだからだ。

 こうした「クリック募金」を日本に本格導入したのは、サイト「スマボ」を運営するディ・エフ・エフ社長の清水久敬さん(41)。米国留学中の1999年にクリック募金を知り、帰国した2001年に会社を立ち上げた。「スポンサー企業はイメージアップにもなり、寄付者、企業、団体の『三方良し』の仕組み。善意が確実に届けられていることを実感してもらうのが私たちの使命」

 一対一ではなく、網目のように人々がつながり、お金が行き交う。思いをのせて。スマボではこれまでに4億7千万円以上が動いた。

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 福岡県内のナオキさん(64)=同=は昨秋、心臓を患い人生で初めて入院した。健康が自慢だっただけに、死後のことを一気に身近に感じた。未婚、両親は他界。相続人はいない。「遺贈寄付」を考えている。

 遺贈寄付とは遺産の全部または一部を、遺言によって希望の団体に贈ること。国税庁によると、16年は約17億円に上った。「国境なき医師団日本」が昨年6月に実施した意識調査では、遺贈寄付の認知度は70代以上で約8割にも達する。

 「遺産が何に使われるか分からない国庫に入るくらいなら、自分の意思を明確にして何かに役立てたい。そうすれば人生無駄ではなかったと思える」。小さい頃から犬を飼っていた。寄付先は盲導犬に関する団体を考えている。

 福岡市のスミコさん(84)=同=は、公正証書に遺贈寄付の意思を明記している。公務員として働いていた頃から、ユニセフ(国連児童基金)に毎年数万円を送ってきた。早産で生まれ、家族に心配されて育ったことから「小さな命を救いたい」と思ってきた。身近な家族はおらず施設で暮らす。いつ人生が終わってもおかしくない年齢になった。「生きている限りは毎年寄付できる。ありがたい。子どもたちの未来につながってほしい」。自分が死んでもお金は生きる。そして誰かが、生きる。

 =おわり

=2019/01/11付 西日本新聞朝刊=

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