演じた、ありのままの自分で もどかしさや心の弱さを 電動車椅子で「走れ!メロス。」 福岡市のNPO法人

 観客席の周りを、6人のメロスが電動車椅子で走る。発語が難しい人のせりふも徐々に耳になじんでいった。先月、福岡市南区であった身体に障害のある人やろう者、高齢の女性らによる演劇公演「走れ!メロス。」を観劇した。同市の認定NPO法人「ニコちゃんの会」や市文化芸術振興財団が主催し、太宰治の小説「走れメロス」を題材に、俳優たち自身が工夫を凝らした創作劇。3日間で立ち見も含め、450人を超える観客が集まった。

 思い通りに身体を動かしづらい人たちの、そのもどかしさが演じるエネルギーを生み出し、動きは観客の目を引きつける-。東京のプロ劇団に所属する俳優・倉品淳子さん(51)のそんな思いと演出が詰め込まれた同会の公演は5作目。今回は、主人公のメロスを、初出演者も含む電動車椅子の6人がバトンタッチしながら熱演した。

 「人を信じられず民を虐げていた王が、メロスとその親友の熱い友情を目の当たりにし、改心する」という有名な物語。ただ筋書きに関係なく、途中で俳優たちが創作した寸劇や身体表現、抽象的なシーンを盛り込むなど、ストーリー展開は単純ではない。

 強調して丹念に描かれたのは、王に友情の存在を証明するため、自ら親友を人質に差し出し、走って助けに向かうメロスが途中でくじけそうになり、諦めかける「情けなさ」や「心の弱さ」だ。額に汗を浮かべ、もともと筋肉が緊張して曲げにくい腕とこぶしにさらに力を込めて上下させたり、発語が容易ではなくても声を張り上げ、ホール中に響かせたり…。

 障害者によるアート活動は時にそれだけで美談として受け取られ、出演者も「障害を乗り越えて頑張る素晴らしい人たち」などととらえられがちだが「人間は誰もがそんなに単純じゃない」と倉品さん。主人公の葛藤や浅はかさを懸命に演じる一人一人の姿が、「ありのままの自分をフラットな目線で見てほしい」と心の内をさらけ出し、訴えているかのように映った。

 「初舞台の俳優もいて、粗削りな部分やエネルギーも武器にできたが、まだまだ成熟していない作品」と同会の担当者。ある出演者も「最大限自分の演技はできたが、練習時間が少なかった」と満足はしていない。前作は初演から1年以上かけてバージョンアップさせ、大阪、横浜での公演も実現した。同会代表理事の森山淳子さん(53)は「資金面などハードルはあるけれど、再演を視野に入れている」と言う。

=2019/01/17付 西日本新聞朝刊=

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