健康被害やクレーマー扱いも…根深い「香害」問題

写真を見る
写真を見る
写真を見る
九州大大学院の岡本剛准教授
九州大大学院の岡本剛准教授
写真を見る
愛康内科医院の石井文理理事長
愛康内科医院の石井文理理事長
写真を見る

みんなのモヤもや会議

 今月のテーマは「そのにおい、気になる?」。香水や食べ物などのにおいが不快という意見の一方、自分の加齢臭が気になるという不安も寄せられました。また、化学物質に反応して体調不良になる「香害」に苦しむ人の声も多く集まり、問題の深さがあぶり出されました。

読者の声 柔軟剤や香水、食べ物が…

 医療事務女性(47)=宮崎市 勤める病院では、これから入院する患者や、面会に訪れた家族に香水のきつい人がいて驚くことがある。入院病棟は大部屋が多く、他の患者は迷惑だろう。以前住んだマンションでは、隣のベランダから柔軟剤の強いにおいがして嫌だった。においの強さは、使っている本人には分からないもの。人に迷惑を掛けるほど強いのはどうかと思う。

 専業主婦(78)=長崎市 マンションの隣室に新しい家族が入居して以来、洗濯物から時折、生臭さを感じるようになった。「お昼は洗濯物を干すので魚を焼くのはやめてほしい」とマンションの意見箱に投稿したが、問題にもならず、部屋干しせざるを得ない。たばこのにおいについてのお知らせはあったのに、食べ物に関しては注意できないのだろうか。

 主婦(53)=福岡市南区 幼い頃から冷却枕のにおいが嫌いだった。若い頃は、甘栗とお香のにおいで天井が回り出し、ダウンしたこともある。においが強い百貨店の化粧品売り場も足早に通る。街中ににおいがあふれ、鈍感になった人とより敏感になった人に分かれたのではないか。できれば私も鈍感になりたい。

 無職女性(67)=福岡市西区 最近CMなどで香りを大々的に宣伝するものが多い。つい買ってしまうが、ある日母に「トイレットぺーパーににおいがついていて嫌だ」と言われはっとした。皮膚に直接触れるものだけに、安全面が気になり始めた。テレビで「香害」に悩んでいる人もいると知ってからは、無香料の商品を買うようになった。

自分が発していないか心配

 女性(76)=福岡県須恵町 尿臭や加齢臭を発しないよう、私たちおばあちゃんは大変。くしゃみやせきで、思わず漏らしてしまうこともあるから…。外出時は必ず着替えるようにしている。先日、食堂付近を歩いていて「おいしそうなにおい」と言われ、驚いた。分からなかった。鼻も年を取るのか。台所には毎日立つが、料理のにおいに鈍感になった。焦がしやすくなると聞くし、危険への察知力が問題だ。

 会社員女性(45)=福岡市中央区 ここ数年、同世代の夫のにおいが気になることがある。おそらく加齢臭。揚げ物を控えた方がいいと聞いたことがあり、メニューに気を使っているが、どうせ昼食には揚げ物を食べているはず…。においについて本人には言いにくい。私も言われないだけでにおっているかも、と気になるようになった。

個性の表現、お互いさま

 会社員男性(32)=福岡市南区 不必要なまで強いにおいでなければ、香水は好き。個性を表現する一つの要素だし、皆が無臭だと味気ない。最近、街でふと感じる好きな香りがあり、何の香水か呼び止めて尋ねたいぐらい。列車内でたこ焼きやフライドポテトのにおいが不快と議論になっているが、自分は気にならない。つられて食べたくなるのが少し困るけど。

 パート女性(39)=佐賀県小城市 花束のにおいも苦手なぐらい、無臭が好き。夫は私が香水が嫌いと知ったからか、付けなくなった。においがどれぐらい許容できるかは、個人差が大きい。

 会社員女性(50)=熊本市中央区 大学時代から、外出時は香水を付けている。服を着るのと同じ感覚。夏は爽やか系、冬は厚みのある感じと流行も考えて選ぶのが楽しい。病院や飲食店に行くときは付けない。そういう私も柔軟剤のにおいは苦手で、嫌がる人の気持ちが分からないでもない。でも同じ空間にいる限り、においに限らず「お互いさま」のようなことがある。もっと寛容になってもいいのでは。

識者に聞く(1) においの感じ方には個人差―九州大大学院・岡本剛准教授

 脳科学の視点からにおいの研究をしています。「スメルハラスメント(スメハラ)」や「香害」という言葉が生まれたのは2010年前後。背景には、海外製の香り付き柔軟剤が流行したことや、東日本大震災後に節電が叫ばれ、職場で汗をかきやすくなったことがあります。スメハラは日本独特の概念で、最近は制汗剤の使い方など研修を行う企業も増えています。

 人は自分の体臭を基準に他のにおいを判断しているため、においの感じ方や受け止め方は人によって異なります。慣れ親しんだにおいに近いにおいは好きになりやすいなど、幼少期の環境なども影響します。

 においは、脳内で記憶をつかさどる海馬や、感情に関わる扁桃(へんとう)体などさまざまな箇所と複雑に関わりながら処理されるため、感情や記憶を想起することもあります。

 体臭は体調や年代、食生活などによって生じ、単純に本人の責任だと言い切れません。やみくもに非難すると人格否定につながりかねません。人には指摘しにくいため、汗や脂をこまめに拭き取るなど自分のにおいを気にすることが大切です。

「香害」の苦しみ知って 化学物質過敏症の可能性も

 1月28日から12日間、記者のツイッターで意見募集したところ約50件が寄せられ、大半が「『香害』の苦しみを知ってほしい」という内容だった。化学物質過敏症の可能性もある。

 福岡県の女子高校生(17)は、柔軟剤でアレルギーのような症状が出る。冬は教室の換気の回数が減り、柔軟剤やハンドクリームが混ざった謎のにおいに包まれる。「目の充血や倦怠(けんたい)感、微熱などが出て、勉強どころではない」と嘆く。

 神戸市の主婦(44)は香害で電車にも乗れなくなった。近隣の人が使う柔軟剤のことで管理会社に相談するとクレーマー扱いされ「どんどん追い詰められている」。東京都の自営業女性(37)は「香り・消臭ブームの裏で健康被害を増やしている側面があるのでは」と問題提起した。

 洗剤メーカーなどでつくる日本石鹸(せっけん)洗剤工業会が2015年に行った調査によると、柔軟剤を使用する人の約2割が目安量の2倍以上を使用していたという。同会は昨年、柔軟剤の品質表示に関する自主基準を改定。周囲への配慮と適正量の使用を全製品に記載するよう決めた。香料について、安全性は「国際機関の基準で判断しており、問題ない」とする一方、成分の公開は「消費者の知る権利に応えるため、前向きに検討を進めている」としている。

識者に聞く(2) 「香害」で日常生活に支障も―愛康内科医院・石井文理理事長

 化学的な成分が原因で体調を崩す人の来院が増えており、症状によって化学物質過敏症と診断します。排ガスなどによる空気汚染や、香料入りの柔軟剤など化学物質が含まれる商品が生活の場に広がっていることが背景にあります。

 香料に含まれる成分で体調が悪化する「香害」は、化学物質過敏症の一つ。どの成分に反応するのか特定するのは難しく、因果関係も分かっていませんが、頭痛、せき、ぜんそくなどが出て、中には日常生活に支障を来し、学校や仕事に行けなくなる人もいます。単なるにおいの好き嫌い、精神的な病気と勘違いされがちで、家族や職場の理解を得るのが容易でありません。詳しい医師も少なく、孤立する人も多いです。

 治療の中心は環境改善と生活習慣の見直しです。原因物質から離れ、断食や腸内洗浄によって体内の化学物質を洗い流します。生野菜や玄米がゆなど栄養のある食事を取り、腸内環境を整えて免疫力を高めます。

 免疫力が下がれば誰でも起こり得る病気です。症状がない人も、予防のために香料を用いた製品をなるべく身の回りに置かないように心掛けましょう。(福岡県久留米市)

 

=2019/02/22付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]