支援漏れ、なくす連携を 最後の寄る辺で~養護老人ホーム報告(下)

福岡県川崎町が直営で運営する養護老人ホーム「愛光園」。改築したばかりで、明るい空間になっている
福岡県川崎町が直営で運営する養護老人ホーム「愛光園」。改築したばかりで、明るい空間になっている
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 明るく広い食堂に入所者の笑い声が響く。福岡県川崎町の養護老人ホーム「愛光園」。2016年4月に改築したばかりで「個室だし、快適なので入所希望者が増えています」。野村幸司園長が教えてくれた。

 多くの養護老人ホームは社会福祉法人が運営しているが、この施設は町直営だ。老朽化による改築費は約5億1500万円。一般会計当初予算が100億前後の町にとって、県の補助はあったが負担は大きく、職員の人件費や維持管理費もかかる。全国では、そもそも養護老人ホームがない自治体もある。それでも「住み慣れた地にいたい高齢者のため、直営の継続と改築が決まった」と渡辺耕二・高齢者福祉課長は言う。

 養護老人ホームに入所措置した人の数も、同町は18年4月時点で17人と、人口規模が似た県内自治体より多かった。当時の人口は1万5千人台。他の1万~1万9千人台の自治体は0~10人で、人口4万5千人台で措置ゼロの町もあった。

 措置者の多さは理由がある。老人福祉法施行令が定める入所措置の収入要件は「生活保護受給者や市町村民税の所得割がかからない低所得者、その他の理由で困窮する人」。生活保護や市町村民税の条件を満たさなくても「その他の理由」を広く解釈している。

 年を取った身内から介護される高齢者、子どもが介護離職した高齢の親。こうした身内のいる人も対象といい、渡辺課長は「収入だけでしゃくし定規に線は引かない。その人の状況を総合的に見る」。18年度は新たに8人を入所措置した。

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 人口規模が同じでも措置数に差が出るのは、申請を受け付ける市町村の窓口の対応に要因がある。

 自治体関係者によると、措置でなく生活保護を支給して有料老人ホームなどの選択肢を示す市町村は、人事異動で窓口の職員が入れ替わる際、同じ対応を引き継ぐ傾向があるという。

 全国老人福祉施設協議会の大山知子・養護老人ホーム部会長は、その弊害をこう指摘する。「必要なのが生活保護のお金による支援なのか、養護老人ホームのように生活全般を見る支援なのか、判断できていない。お金だけでは自立につながらない人もいる」

 窓口の事情はどうか。九州のある市で措置業務を担当する30代男性職員は、措置を求める側と行政に、意識の隔たりがあると見る。

 この職員によると、高齢者を支える身内やケアマネジャーには、知識不足から「困ったら措置してもらえる」との意識が強いという。一方の行政は担当職員が3年程度で異動するため、全てが福祉の専門職とは言えない。「経験や知識がないため、入所判定委員会に上げるべきケースでも『あなたは措置に当たらない』と回答することがある」とし、こうした市民と行政の溝を埋める仕組みが必要と訴える。そのヒントが、佐賀市にある。

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 人口約8千人を管轄する佐賀市金立町の地域包括支援センター「おたっしゃ本舗 金泉」は、介護保険サービスを利用する高齢者などに今後どんな支援方針を立てるか、養護老人ホームを交えて議論している。

 議論の場は、15年度の介護保険法改正で設置が求められた「地域ケア会議」。ケアマネジャーや介護事業者、保健・医療関係者、市職員が集まり、養護老人ホームの生活相談員も入る。これとは別に、困窮者や虐待を受けた高齢者など、急いで対応を考える会議でもホームの意見を聞く。その上で本人に入所の選択肢を助言したこともある。

 山本美余子センター長は「困窮する人は増え、生活保護があっても月1万~2万円が足りない人はいる。それを支える制度は十分でなく、養護老人ホームが会議に入れば、高齢者の選択肢が増えることを多職種で共有できる」と意義を語る。

 支援が必要な人の掘り起こしと、その人に合ったセーフティーネットの提供。他に当てがない人にとって「最後の寄る辺」である養護老人ホームへの措置控えは、その両方が足りない表れでもある。

 城西国際大の清水正美教授(福祉政策論)は「地域ケア会議に養護老人ホームが毎回参加すれば、ホームが知る地域の高齢者の課題を市町村に提示できる。措置すべき人の状態や、ホームの専門的支援を他の専門職に伝えることもできる。そうすれば措置から漏れる人が減り、その人のニーズに合った見守りや支援ができるのではないか」と語る。

地域ケア会議】高齢者が要介護状態になっても、住み慣れた地域で暮らすのに必要な支援を提供する「地域包括ケアシステム」を実現するための仕組み。地域包括支援センターや市町村が主催し、保健・医療・介護の専門職や行政、民生委員などが、高齢者各人の支援方針や提供するサービスの内容を考える。養護老人ホームを委員に加える例は少ない。

=2019/03/13付 西日本新聞朝刊=

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