【とまり木どこに】学校編(6)障害のない子と学び合う先に

熊本市立託麻南小に通っていた当時の住谷栞音さん(左)。同級生のリコーダーの音に笑顔を見せた=母の理香さん提供
熊本市立託麻南小に通っていた当時の住谷栞音さん(左)。同級生のリコーダーの音に笑顔を見せた=母の理香さん提供
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 重い障害があり、医療的なケア(医ケア)が必要でも、熊本県内では10年以上前から、親の手を離れて小中学校で学ぶ子どもがいる。「校内より医ケアのリスクが高い」とされる宿泊学習も、親の付き添いは必須ではない。障害の有無にかかわらず、子どもが自立し、ともに地域で学ぶ「先進地」の現状や課題とは-。

 ●私も差別していた

 住谷理香さん(45)=熊本市東区=の次女、栞音(しのん)さん(16)は9年間、地元の小中学校に通った。

 生後、脳性まひと診断され、一人では歩けず、話はできない。胃ろうから栄養注入も必要だった。就学前年の2008年、栞音さんを特別支援学校に通わせることに「何の疑問も抱いていなかった」理香さんに、地元の市立託麻南小に通う2歳上の長女が問い掛けた。「(妹は)どうして一緒の学校に行けないの?」。理香さんは「言葉に詰まり、ハッとさせられた」という。

 教育委員会の就学相談では「前例がなく難しい」との返事。だが同小の教員に相談すると、こう励まされた。「おかしい。行けないことなんてないんです!」

 熊本県内では1980年代以降、障害児も地域の学校で一緒に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を目指す機運が高まり、各地で親や教員たちのグループが立ち上がっていた。郡部では、医ケア児が小学校に通う先例もあった。

 こうした仲間に支えられ、理香さんは要望活動を行った。翌09年、市教委は同小に看護師1人を配置することを決め、栞音さんは無事、入学が認められた。

 当初は看護師がいても、学校での医ケアは親の役目。「何でしゃべらっさんと?」「おなかに穴が開いて痛くないと?」…。理香さんは「娘のことを素直に知ろうとする」同級生の言葉がうれしかった。特別扱いせず、給食や掃除の当番も一緒にしようと、皆が考えを出し合ってくれた。

 学校側と話し合い、付き添いも徐々に緩和。最終的には普段だけでなく、校外学習や宿泊学習でも看護師に任せられるようになった。中学時代、修学旅行の後、帰宅した栞音さんの笑顔を理香さんは忘れない。「子どもは子どもの中で育つ。振り返れば、栞音が小学校で過ごせるわけがないと、親である私自身が差別していたのかもしれません」

 ●待遇の改善も急務

 宿泊学習に親が同行しない例も、熊本県内では以前からあった。

 04年、同県菊陽町で初めて小学校の看護師に任用された春木洋子さん(55)は06年、集団宿泊学習にも付き添った。相手は胃ろうとたんの吸引があり、夜間は人工呼吸器も使っていた小5の女の子。実は母親から自費で頼まれ、03年から週1回、学校で胃ろうの世話をしてきた間柄だった。不安はあったものの、夜間に自宅を訪問し、呼吸器の扱いも覚えた。「親子としっかり信頼関係をつくって準備すれば、対応は十分可能。実際に経験し、自信にもつながった」と振り返る。

 学校看護師の多くは今も、臨時職員や嘱託として雇われている。夜間の医ケア対応など、勤務実態に見合った待遇を受けていないケースもある。「親から離れて宿泊体験できる環境を維持していくためにも、担い手側の態勢づくりも大事でしょう」(春木さん)

 ●選択肢が浸透せず

 ただし、同県でもインクルーシブ教育が広く浸透しているとは言い難い。近年、障害の特性にあった専門の教育を求めるニーズも増えている。熊本市教委によると、市内の医ケア児の8~9割は小中学校ではなく、県立の特別支援学校に通っているとみられる。

 二十数年前から親や教員で活動するNPO法人「風とねむのきの会」理事の緒方郁子さん(61)=同県大津町=は「地域の学校に通う選択肢があることがあまり知られていない。幼いときから互いに接する機会があるからこそ、将来の共生社会につながることをもっと訴えたい」と力を込める。

 住谷理香さんも14年に発足した親の会「虹色の会」の代表だ。今は「義務教育後」に頭を抱える。中学を卒業した栞音さんは県立高校を受験したものの今春、2年連続で不合格となった。いずれも募集定員割れだったにもかかわらず「同級生と一緒に進学したい」との願いはかなわなかった。発語や文字を書くことが難しい受験者への配慮など、現状は道半ば。「ハードルは高いですが、今後も娘の思いに寄り添って、親としてできることを考えていきます」。後に続く子どもたちのためにも-。理香さんは決意を新たにしている。

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【ワードBOX】熊本県内の学校看護師

 医療的ケア児に対応するため、熊本市は正看護師資格を持つ学級支援員(臨時職員)として、小中学校への配置を2009年度に開始。18年度は14校に1人ずつ置いた。宿泊学習では保護者にも付き添い協力を求め、必要な場合は個別に安全性を確認した上で、看護師のみでの対応も認めている。熊本県によると、18年度は熊本市以外でも13市町村・小中17校に計22人が配置されている。一方、県立の特別支援学校への配置は02年度に始まり、18年度は7校に計20人。

=2019/04/04付 西日本新聞朝刊=

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