【とまり木どこに】学校編(7完)子どもの学ぶ力を開花させるには

かかりつけ病院の院内学級で、英語の授業を受ける悠真君=3月
かかりつけ病院の院内学級で、英語の授業を受ける悠真君=3月
写真を見る

 今回の連載では、医療的なケア(医ケア)や重い障害があっても、子どもが親から離れて学校で学べる環境が地域でどこまで実現しているのか、その「現在地」を見つめてきた。

 特別支援学校だけでなく地域によっては小中学校にも看護師配置が始まり、医ケア児の受け入れ態勢は整いつつあるように見える。半面、こうした医ケアの担い手がいても、教育委員会や学校それぞれの事情や判断に伴い、可能なはずのケアの内容などが制限され、親の負担解消や、子どもの学び場確保につながっていない現実がある。最終回はあらためて、ある母子のケースを紹介する。

 ●「私さえ頑張れば」

 「最初は私が頑張ればいいと思っていました。そうすれば息子が笑顔で学校に行けると。でもだんだんきつくなってきて…」。福岡県内に住む母親(45)の目はうつろだった。

 小6の次男悠真君(11)は二分脊椎などの病気を患い、胸から下はまひがあり、車椅子で生活する。自分でおしっこを出すことができず管を入れて尿を取る医ケア(導尿)が必要。おととしから鼻に入れた管からの栄養注入もある。それでも言葉で意思疎通し、人懐こい元気な男の子だ。

 就学前は地元の保育所に通った。看護師がいて母の付き添いはすぐ必要なくなった。障害のない友だちと運動会や遠足も楽しんだ。

 そのまま小学校に進むつもりだったが、看護師の配置はなかった。教育委員会の勧めで、開校して間もない近くの特別支援学校に通うことになった。

 学校看護師はいても「前例がない」との理由で導尿の対応はなし。悠真君が小1の夏に体調を崩して長期入院すると、母は「しばらくの間」として学校に待機を求められた。

 その後も悠真君は何度か入院した。病院でも親は事実上、24時間の付き添いが必須。学校側は「入退院を繰り返し、体調が安定していない」と判断し、学校待機もなくならない。ほぼ病院か学校にいる母の暮らしは1年以上、続いた。

 たまらず学校に相談した。しかし医ケアの担当教員からは「悠真君に何かあっても看護師は手を出せない。待機は当然」と言われた。涙がこぼれた。「終わりの見えない待機のつらさを誰も分かってくれない」

 相談支援専門員に掛け合ってもらい、小2の3学期から、悠真君をやむなく訪問教育に切り替えた。

 ●英会話もみるみる

 訪問に替えた理由はもう一つある。悠真君は知的な遅れが若干あったものの、入学時は「普通に話すし、本を読んでいた」と母。しかし同校では、障害の重さの程度によって分かれる4クラスのうち、2番目に重いクラスと判定された。

 授業はリハビリ的な自立活動が少なくない。悠真君は読めていたひらがなも苦手になった。訪問は1回2時間、週3回だが「その方が勉強を教えてもらえるのでは」と考えたからだ。

 1回の入院が2~3カ月に及ぶこともある悠真君。昨年12月、居住地以外に立地するかかりつけの総合病院で初めて、病弱児向けの院内学級に通い始めた。

 クラスメートは地域の小学校の特別支援学級に通う年下の児童2人。悠真君は約3カ月で、2桁の足し算や簡単な英会話まで、みるみる覚えていった。

 「悠真がイエス!とか言えると思わなかったので、びっくりしました…」

 ●成長あっという間

 悠真君は3月に退院。再び訪問教育に戻ることになった。相談支援専門員から「また通学に替えては」と提案されたが、同じクラスに戻るなら意味はない、と母は思う。「付き添いする、しないで学校側とまた闘う気力」もない。

 小学校に看護師配置のある近隣の市に越境して通えればどんなにいいか。「子どもの能力を精いっぱい伸ばせる場」が地域によって保障されていないことに、母は苦悩する。来年、悠真君はもう中学生だ。「小学生の間を無駄にしてしまった。ほかにしてあげることが本当になかったのか」。自責の念は消えない。

 骨休めできる「とまり木」もなく、自宅から病院、学校とわが子に寄り添い続ける親たちはなお、九州各地にも存在する。親にこうした自己犠牲を強いることが、結果的に親から自立して学び、成長できる子どもの潜在能力を“殺して”いる-。

 そんな悲しい現実に、学校は、周りの大人たちは、地域社会は、果たして気づいているだろうか。

 =おわり

 ▼今後の学校での医療的ケア 文部科学省は3月、小中学校を含むすべての学校における医ケアの基本的な考え方や留意点を自治体側に通知。「医ケア児の可能性を最大限発揮させ、将来の自立や社会参加に必要な力を培う」ため、医ケアの種類や頻度のみに着目した画一的対応をしない▽保護者の付き添いは「真に必要と考える場合に限るよう努めるべきである」-などとして適切な対応を求めた。学校看護師や教員、教育委員会などの役割も例示。学校の医ケア児が増え、人工呼吸器など高度な対応も必要となるため、有識者の議論を踏まえて整理した。


=2019/04/11付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]