僕は目で音を聴く(12) 本当は1人で入りたい

僕は目で音を聴く(12)本当は1人で入りたい(平本龍之介)
僕は目で音を聴く(12)本当は1人で入りたい(平本龍之介)
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 私は温泉に入るのが好きです。いつも長風呂をしたくなります。しかしほかに入っている人がいると、私はなるべく1人になれるよう、風呂から出て場所を移動することにしています。話し掛けられるとすごく気を使うからです。

 風呂では補聴器を外しますので、そのままでは全く聞こえない状態です。誰かに話し掛けられて反応しなければ、相手に「無視された」と思われるのではないだろうか、といつも心配になります。なのでしょっちゅう、近くの人の顔を見てしまい、せっかくの温泉なのに疲れてしまいます。

 話し掛けられていると分かっても、笑顔で返すしかありません。もちろん筆談用具はないし、必死に唇を読んでも、相手によっては早口で話す人もいますし、そもそも唇が小さい人だと分かりにくいことがあります。

 相手もお風呂で気持ちいい状態になっているので、その雰囲気を壊したくないという気持ちが出てしまいます。相手が長く話している場合には「耳が聞こえません」と答えておくのですが、短く話し掛けられた場合はとにかくうなずきながら、分かったふりをします。おそらく「いい風呂ですね」と言われているのだろうと勝手に想像して。

 ある日、風呂の中で近くのお年寄りから話し掛けられたと判断し、必死にうなずいていたらその方は私の隣にいた人と会話をしていたことがありました。急に恥ずかしくなりました。

 今は、子どもたちと一緒に入るときは「もし話し掛けられたら、お父さんは耳が聞こえないんだよと言ってね」とお願いしています。本当は1人で入るのが好きなのですが、子どもたちと一緒に入ると、一番落ち着くようになりました。まだ子どもたちは小さいので温泉でゆっくり落ち着いて入ることは少なく、すぐあちこちに行ってしまうので、入った気がしなくなることも多いのですが…。

 風呂で話し掛けても反応がなかったら、もしかしたら耳が聞こえない人かもしれませんね。
 (サラリーマン兼漫画家、福岡県久留米市)

 ◆プロフィール 本名瀧本大介、ペンネームが平本龍之介。1980年東京都生まれ。2008年から福岡県久留米市在住。漫画はブログ=https://note.mu/hao2002a/=でも公開中。

=2018/07/05付 西日本新聞朝刊=

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