「毒は僕の武器」 自虐ネタで快走 熊本の寝たきり芸人 あそどっぐさん

自虐ネタを「とにかく笑ってほしい」とあそどっぐさん。昨年発売した写真集「あそどっぐの寝た集」を抱えて=1月25日、熊本県合志市の自宅
自虐ネタを「とにかく笑ってほしい」とあそどっぐさん。昨年発売した写真集「あそどっぐの寝た集」を抱えて=1月25日、熊本県合志市の自宅
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 ●笑ってくれた先に社会が良くなれば僕は丸もうけ

 難病のため、顔と左手の親指しか動かせない自称“世界初”の寝たきり芸人、あそどっぐ=本名は阿曽太一さん(39)、熊本県合志市。重い障害を逆手に、自虐的なネタをライブやインターネットの番組で披露、話題を集める。「とにかく笑ってほしい」と願う本人の意気込みとは裏腹に「笑っていいのか」とこちらが戸惑うこともしばしば。受け手の反応に葛藤はないのか。目指す「お笑い」の奥底に潜む思いとは。

 生まれつき、全身の筋力が徐々に低下する脊髄性筋萎縮症を患う。市営住宅で毎日24時間ヘルパーの介助を受けて1人で暮らす。自宅でもステージでも、移動はストレッチャー。ギャグのネタは、自身の暮らしの一こまそのものだ。

 ▼強すぎるインパクト

 「多目的トイレで順番待ちしてると、たまに若いカップルが出てくる。多目的」「パソコンで事務作業してるのに『お休みのところ、すみません』と声をかけられた」「仮病はバレない自信があります」…。昨年出版した写真集「あそどっぐの寝た集」にも、障害者の暮らしに思いを巡らす機会が乏しい健常者や、社会そのものをやゆするような内容が並ぶ。「そんな毒の部分が、僕の武器」と自認する。

 ネタやコントは福岡などでのライブで披露するほか、インターネットの動画サイトに投稿。横たわったままパソコンのカメラに向かい、大きな目で表情豊かにたたみかけていく。コメント欄には「普通におもしろい!」「俺は好きだぜ」と好評価がある一方、「キモい」「笑えんわあ…」と厳しい言葉も。ライブでは目を伏せ、視線を合わせてくれない客もいる。

 「内容以前に、障害者の見た目のインパクトで頭がパニックになるのかもしれません」。そんなときは「笑うのもボランティアですよ」と場をなごませる。

 ▼「かわいそう」どっち

 年配の客に多いのは笑うより「感動した」との反応。ネタ探しもあり電車で街に出る機会も多く「この前は全く知らないおばちゃんにハチミツをもらった」。

 先日、バス停でおばあちゃんから「大変ね」と声を掛けられた。「どこ行くの?」「大冒険ね」‐。会話をするうち、長々と身の上話が始まり「もう実際、おばあちゃんの方が孤独でかわいそう」だった。

 お年寄りが多い会場でネタを披露する際には、自ら客をいじる。「おばあちゃんも足が悪いんですね」「○○の経験がある人、手を挙げてください。あ、五十肩の方は無理せずに」。哀れみとも映る視線に“対抗”して「軽く毒を吐く」ことで、いつの間にか立場がフラットになり、距離が縮まる感じがあるからだ。

 「またばか言って、みたいに少し笑ってくれる」

 ▼下ネタで締めるわけ

 2011年から芸人活動を始め、ネットでの発信は1日も休まず1100日を超えた。テレビ番組の障害者芸人コンテストで準優勝した経験がある半面、一般の芸人と争う直近の大会は、予選1回戦で敗れた。認知されるほど新鮮みが薄れるのは、お笑いタレントの宿命。今は「毒をもっと濃くしていくべきか、など手探りの状態」という。

 最近「もっと売れたい」と強く思う。多くの重度障害者が犠牲となった16年の相模原障害者施設殺傷事件で「殺されても仕方がない存在なのか」と自問。その後、大学でネタを披露し学生たちと話す機会があった際、半数が事件を知らずさらに衝撃を受けた。「僕がもっとメディアに出て、障害者の存在をアピールできれば」偏見や無関心も変えられると信じる。

 「舞台経験も積める」ため、講演会の依頼はほとんど断らない。ただ説経じみた話は「やっぱり社会を変えるために頑張って、と見られがちになる」。お笑いと離れるジレンマがある。

 だから講演会の最後はだいたい、下半身ネタの連呼で終える。隣の手話通訳はずっと自身の股間を指さす羽目になり「すごい迷惑そうなんです」。ハハハと笑った。

 「ばかやって喜んでもらって、それで社会が良くなれば、僕的にはすごい丸もうけ」。彼の毒は社会の良薬か。寝たきり芸人のギャグを、みなが腹の底から笑える日が待ち遠しい。


=2018/02/01付 西日本新聞朝刊=

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