介護職員の満足度上げたい ICTで支え手不足解消を 最新事例 宮崎の山田さんが紹介

講演した山田一久さん=10月31日、福岡市
講演した山田一久さん=10月31日、福岡市
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 超高齢社会で深刻化する介護や医療などの「支え手」不足を情報通信技術(ICT)によって解消を図る試みが九州でも広がる。運営する特別養護老人ホームや保育園などで先進的なシステムを導入している宮崎県都城市の社会福祉法人「スマイリング・パーク」理事長の山田一久さん(48)がこのほど、福岡市で講演。「ICTを活用してまず施設職員の満足度を向上させ、離職率を減らすことが、サービスの質を高めることにつながる」と訴え、産学官民が協力し、こうした仕組みづくりを推進すべきだと力を込めた。

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 興味や好きだという気持ち、ストレスなど「感性の度合い」を脳波から読み取り、介護を受けている人の気持ちを推し量る「ケア・コミュニケーター」▽職員の声で介護の記録を入力し、パソコンやiPadなどタブレット端末に電子化できる音声入力支援システム「ボイスファン」▽専用のベッドで寝返りなどの動きを感知し睡眠中の入居者を見守る「眠りSCAN」▽体温や血圧、脈拍などの利用者のデータを看護職員や在宅のケアマネジャーなど多職種が携帯端末などでリアルタイムに共有できる「バイタルリンク」…。同法人が取り入れている最新のICTを、動画などを使って丁寧に紹介した山田さん。「働く人が幸せを感じ、余裕がない限り、入居者や利用者にその幸せを分け与えることはできない」。導入した最大の狙いは、介護職員の“働く場の環境改善”である、と明快だ。

 要介護度の重い入居者・利用者との意思疎通の困難さは職員のストレスにつながる。介護には膨大な記録が欠かせず、介護報酬の不十分さも背景に離職者が後を絶たず、離職率は今でも全国で16・2%(2017年度)に上る。同法人の離職率も当初は25%(03年度)に達し「介護ニーズに対応するどころか、サービス自体が提供できなくなる」と危機感があったという。

 手書きに依存していた記録を電子化すれば残業の大幅減につながる。入居者、利用者の情報を瞬時に全員が共有できれば、ケアに専念できる。結果的に介護の質が向上するのでは-。そう考え、大学やベンチャー、大手企業とも積極的に情報交換を重ねてさまざまなICTを導入した。

 機器による見守りで、職員が手薄な時間帯の不安感も軽減され「職員のことを考える魅力ある施設として評価されるようになった」(山田さん)。結果、ここ3年間の離職率は3%と激減。居宅介護や訪問看護、デイサービスなど事業も拡大し、スタッフもここ5年間で200人増え、事業収入も3倍となった。

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 介護は経験や知識のある人間がいいと判断されがちなため、ICTは人の手によるケアに比べて冷たい印象がつきまとい、敬遠される面もある。法人内でも一部のベテラン職員らから反対の声が上がった。パソコンができない▽手書きより入力に時間がかかる▽顔を付き合わせた申し送りが軽視される-と不安視されたことなどが理由だ。

 同法人では「優しく教える」職員を配置し、決して無理強いせず、簡単な無料通信アプリ「LINE」などの操作から慣れてもらった。山田さんは「段階を踏んで丁寧に研修を進めるなど慎重な対応が必要。そうするとICTへの嫌悪感も薄れていく」と指摘した。

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 山田さんは最新のICTを導入していることを積極的に情報発信中。さらにベンチャー企業関係者や大学側とネットワークが広がり、新しい技術開発につながっているという。福岡市も介護分野を中心に、ICTでも人材不足を補おうと、こうした産学官民による“好循環”を生み出す仕組みづくり「ケアテック推進コンソーシアム」に取り組んでおり、この日の講演会も、そのセミナーの一環として企画された。

 究極的には「スイッチ一つで動く掃除機などのような使いやすい機器」(山田さん)が生まれなければ、介護に携わる人すべてがICTを使いこなす社会の実現は難しいのかもしれない。そんな技術革新のためにも、「誰もが夢を持てる環境を、勇気を持って整備しましょう」と講演を締めた山田さん。団塊世代が75歳以上になりサービスの需要が高まる25年、宮崎県の介護人材は約3600人、福岡県は約9500人不足するとされる。

=2018/11/08付 西日本新聞朝刊=

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