悩み打ち明け 誇り取り戻し 新しい目標へ 福祉職の離職を防ぎ、支える 職場超えコミュニケーションの場

福岡福祉向上委員会の定期イベントでは、専門学校の学生らと現役の福祉職員が意見交換した=20日、福岡市中央区
福岡福祉向上委員会の定期イベントでは、専門学校の学生らと現役の福祉職員が意見交換した=20日、福岡市中央区
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福岡市介護人材合同就職面談会で運営スタッフを務めた大庭欣二さん(右)=10日、福岡市中央区
福岡市介護人材合同就職面談会で運営スタッフを務めた大庭欣二さん(右)=10日、福岡市中央区
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 ●福岡市の「福祉向上委員会」2年

 離職者が後を絶たず、求職者も数えるほど。少ない人手で、終わりのないケアを続ける日々…。高齢者介護など福祉に携わる人々に、そうした悩みを吐き出し、専門職としての「誇り」を取り戻してもらおうと、他職種も交えた会合を定期的に開催している団体が福岡市にある。2年前に設立された「福岡福祉向上委員会」だ。「介護職など福祉のプロを日常的に支える仕組みを作り、事業所と業界全体の成長を促したい」。福祉事業の経営コンサルタントで、代表の大庭欣二さん(51)はそう願う。

 20日夜、市営地下鉄赤坂駅(同市中央区)近くのビル3階。大きなテーブルを、福祉の専門学校生や留学生、実際に介護現場などで働く中堅の職員らが囲んでいた。「特別養護老人ホームでアルバイトしていたとき、入所者のお年寄りに命令口調のスタッフがいて…。目上の人に対する感覚がなくなっていくんですか?」。学生側の素朴で鋭い質問にややたじろぎつつ、職員側は真剣に答えていく。「世話をしてあげている、という感覚が、気づいたらこちら(介護)側主導になって、そういう口調になる職員もいるのも事実。自分が逆の立場なら嫌だし、自分や、自分の両親を入れたいと思える施設にしていきたい」-。

 福祉職同士が悩みなどを打ち明けて共有したり、福祉に関する知見を学んだり、同委員会が月1回開くイベントの一環。この日は初めて介護士らの“卵”たちを招き、福祉の未来を語り合う機会とした。

 「こういう福祉を目指したいという学生たちの純粋な思いに触れ、現役の職員たちが自分の原点を見返し、初心に戻れたのでは」と大庭さん。「それぞれの事業所に戻って、職場全体で共感してもらえれば」

   ◇   ◇

 大庭さんは14年間、高齢者や障害者介護事業を営む2カ所の社会福祉法人に勤め、労務管理や採用・育成にも携わった。「それらの法人は職員の精神的なケアなど離職対策がうまくいっていたが、地域のほかの法人は必ずしもそうではなかった」。どうしたら働きがいや職業へのプライドを再認識してもらえるのか。「介護のプロを支えることが、高齢者や障害者へのより良いサービスにつながっていく」。法人を退職し、福祉職の離職を防ぐ活動を模索するなか、知り合いの弁護士や医師、カウンセラーら約30人がこうした考えに共感。ボランティアで随時、相談役として参加してもらう形とし、任意団体として委員会を立ち上げた。

 イベントに参加した福祉職は2年間で計180人、延べ677人。「当初は20代後半から30代前半が多いだろうと予想した」(大庭さん)ものの、実際には役職者が6割を超えた。参加者の生の声に触れると、現場スタッフと経営側の双方とも人材の枯渇感に苦しんでいる半面、「それぞれの事業所では雇用関係の中で互いに弱音を吐き出せず、将来像や目標も見い出せずに失望し、離職者が増えていることがあらためて浮き彫りになった」と振り返る。

 異なる事業所に所属する者同士が役職や立場を超え、気持ちをさらけ出したり、目指すべき将来像を再認識し合ったりする機会自体が「独りじゃないんだ、と実感させ、自分の職場で翌日からまた頑張るエネルギーになるのでは」。大庭さんは手応えを感じている。

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 委員会は昨年から福岡市などが主催する介護人材合同就職面談会の企画に参加。大庭さんは介護福祉士のファッションショーやバンドのライブなどと組み合わせるイベント仕立てを提案し「福祉の世界の扉を開けてみようと思う若者を集める仕掛け」に取り組んだ。人手不足を情報通信技術(ICT)で補う産学官民の仕組み作りにも関わる。

 外国人や働ける高齢者の雇用も取り沙汰されるが、大庭さんは「そうしたさまざまな支え手を地域の仕組みにうまく巻き込んでいくためにも、軸となる存在としてやはり福祉職の矜恃(きょうじ)が欠かせない」と指摘する。

 福祉の仕事に携わる人々が離職せず、事業所として成長すれば、業界全体に人が集まる-。理想はそんな「辞めない」「成長する」「集まる」の好循環。「まだ始まったばかりの試みだが、横のつながりを深め、広げることで近づければ」

 最近、北九州市の若手の福祉事業関係者から、同じような仕組みを作りたいと申し出があった。喜んでノウハウを伝えている。

=2018/11/29付 西日本新聞朝刊=

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