「逃げる」介護人材 ミャンマー 交差するアジア(1)

日本で働くことを夢見て、実習生送り出し機関の教室で日本語学習に励む女性たち=ヤンゴン
日本で働くことを夢見て、実習生送り出し機関の教室で日本語学習に励む女性たち=ヤンゴン
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 高層ビルの一室は張り詰めた空気に包まれていた。「介護は大変な仕事だけど、つらい時はどうしますか」。若い女性が緊張で手を震わせながら答えた。「何があっても我慢します」

 採用に壁、焦る日本

 ミャンマーの最大都市ヤンゴンで行われた技能実習生の面談。長崎県から来た社会福祉法人関係者は、女性12人を面接し、5人に「合格点」をつけた。いずれも地元の日系企業ジェイサットコンサルティング(JSAT)が育成した介護労働者の卵だ。

 2025年、日本の介護現場は38万人の人材不足に陥るといわれる。国民の平均年齢が27・9歳と若く、仏教の教えで高齢者の世話を「功徳」と考えるミャンマーは、有望な人材供給国だ。15年から介護人材育成事業を手掛けるJSATには、日本各地の施設から続々と採用の相談がくる。

 ところが、西垣充社長(46)には大きな悩みがある。せっかく育てた人材が、次々に「逃げる」のだ。「シンガポールなど他の国や、別の業種に移ってしまうんですよ」

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 JSATの介護実習生候補は1~3期生32人。1期生は10人いたが次第に減り、最後の4人が今月辞めた。一番の理由は日本の介護実習生受け入れの遅れだ。

 当初16年4月といわれた制度開始は、法整備の遅れで今年11月にずれ込んだ。日本語が上手な人材ほど、待ちきれずに他分野の実習生になる。残った4人をつなぎ留めるため、西垣社長は月1万3千円の「待機料」まで支給していた。「介護施設の内定も出ていたが、家族のために早く稼ぐ必要があったのでしょう」と残念がる。

 訓練の難しさと期間の長さも壁になる。医療団体による座学と、排せつの介助など老人施設での1カ月の実習、さらに日本語の学習。日本語能力はN3(やや自然に近い速さの会話を理解)程度という、他の職種より高いレベルが要求される。収入を得るまでに最低1年。総額25万円の授業料も必要だ。若者には、すぐに働けて、深夜勤が多く、金になる総菜調理などの職種が魅力的に映る。

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 高齢化が進むアジア。ミャンマーの介護人材に期待する国は日本に限らない。

 「タイに介護施設を造る。ミャンマーから人を出せないか」。ヤンゴンで今月初旬、こんな商談が行われた。シンガポールの企業は住み込みで高齢者を世話する人材の養成を始めた。日本の実習生より就労期間が長く、待遇も良い。

 ミャンマーの若者たちは各国の条件や待遇をてんびんにかける。「日本はもはや魅力的な出稼ぎ先ではない。門戸を開ければ喜んで来てくれる時代ではなくなった」と専門家は言う。

 日本へ渡る介護実習生の「帰国後」を視野に入れた動きもある。日本・ミャンマー合弁の「ポールスターカイゴサービス」は、国内での訪問介護やタイ、シンガポールへの再派遣を考えている。アウン・リン・ティン社長(43)は断言する。「最先端の日本式介護を学んだ人材は貴重な存在。必ず世界中で必要とされる日がやってくる」
(バンコク浜田耕治)

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 経済成長著しいアジアでは国境を越えて人々が「交差」する。労働者や実習生を送り出す国、受け入れる国の現場を訪ね、「移民」たちの実態を探る。

=2017/03/14付 西日本新聞朝刊=

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