採用阻む「ビザの壁」 変わる仕事場(5)

日本人の補助者に指示を出しながら測量するマハルジャンさん(左)=3月29日、北九州市
日本人の補助者に指示を出しながら測量するマハルジャンさん(左)=3月29日、北九州市
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 北九州市の大規模工事現場に、よく通る声が響く。

 「ハーイ、測りまーす。5ミリ右です。オーライ」

 測量機器をのぞき、無線で指示を出す男性のヘルメットには「らくすまん」と書かれた名札。「大建測量エンジニア」(北九州市)で4年前から正社員として働くネパール人、マハルジャン・ラクスマンさん(31)だ。

 来日は2009年。日本語学校から福岡市の福岡国土建設専門学校に進み、測量士補の国家資格を得た。就労ビザを取得して入社し、今では現場の安全衛生管理をする「職長」を担う。「明るくて、腕は確か」。同僚の信頼は厚く、待遇は日本人と同じだ。

 「真面目で勤勉、仕事も丁寧」。社員36人のうち6人が外国人。4月にネパール人4人、秋にフィリピン人1人を新規雇用する予定だ。高い測量技術を売りに海外展開をにらむ椛嶋寿彦社長(50)は「いずれ彼らの語学力は武器になる」。

 日本語と技術を身に付けた外国人は今や「金の卵」。しかしマハルジャンさんのような技術者を除けば、企業で働く就労ビザが取得しやすいのは、通訳や語学講師などに限られている。

   ◇   ◇

 就労ビザは「難関」だ。大卒や専門学校卒の中間層「ミドルスキル人材」はビザを取れず、就職を断念するケースも少なくない。

 韓国・釜山出身の金(キム)ボミさん(27)も、失意を経験した。地元大学の社会福祉学科在学中の11年、福岡市を中心に介護事業を展開する「ウェルビス悠愛(ゆうあい)」(福岡市)でインターンシップ研修。卒業後に総合職での就職を希望したが、就労ビザは認められなかった。

 「優秀な人材を逃したくない」と、同社の池田雄図副社長(32)は卒業した金さんを呼び戻し、ワーキングホリデーで1年間雇用。金さんは13年12月に日本語能力試験で最高の「N1」に合格し、再び就労ビザ取得を目指した。それでも簡単ではなかった。

 「就労が認められていない介護現場で働かせるのではないか」。そう疑う入国管理当局に、何度も資料を提出。通訳などの職に就ける日本語能力が認められ14年1月、やっとビザ取得にこぎ着けた。

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 在留資格の拡大など規制緩和を求める声は日増しに強まっている。

 製造業が集積する愛知県は15年11月、国家戦略特区に「外国人雇用特区」を加えるよう政府に提案。「技能検定3級以上」の資格と高い日本語能力を持つ外国人を、中小企業が「産業人材」として採用できるよう就労ビザの対象拡大を求める内容だ。

 九州、沖縄、山口の9県と経済界などは昨年、「外国人材の活用検討チーム」を立ち上げた。外国人を採用する場合、中小企業は大企業よりも提出書類が多いなど審査が厳しく、ハードルになっていることから「申請書類の簡素化」などの規制緩和を要望する方向で議論を進めている。

 人手不足が深刻化し、外国人材に頼らざるを得なくなりつつある日本。“鎖国”的な制度が、外国人材受け入れの「壁」となってなお立ちはだかる。

=2017/04/04付 西日本新聞朝刊=

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