声つなぐ知恵と経験 橋渡し ともに生きる(5)

心ない落書きを消し、中国人と日本人の住民が一緒に手形を装飾した団地のベンチ=埼玉県川口市
心ない落書きを消し、中国人と日本人の住民が一緒に手形を装飾した団地のベンチ=埼玉県川口市
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 「日本語ができないだけで契約を断る。差別ではないか」「契約のとき、暮らしのルールも教えてほしい」。不動産の賃貸契約について、外国人メンバーが次々に経験談を語りだした。近くに座る地元の不動産業者らがペンを握り、内容を書き留めていく。

 3月下旬、東京・新宿区役所で開かれた「多文化共生まちづくり会議」。在住外国人と日本人の住民代表らが同じテーブルを囲み、共生の課題を話し合う枠組みを、区が発足させて5年になる。

 これまで扱ったテーマは教育、防災、住宅…。言葉の壁で埋もれがちな悩みや要望が、外国人メンバーの口から明るみに出た。自治体が音頭を取り、外国人と行政、住民、民間が知恵を出し合う「プラットホーム」が機能している。

 「ではどうすれば借りやすくなるか、具体的に考えましょう」。不動産契約を巡る外国人の不満を受け、進行役の大学講師が呼び掛けた。会議は来年夏にも改善に向けた提言をまとめる。区は不動産業界にも配布し、協力を求める予定だ。

   ◇   ◇

 外国人と日本人をつなぐ仲介役は、住民同士の対立や不信感を和らげるのにも欠かせない。

 埼玉県川口市の「川口芝園団地」は入居者の半数近くを中国人が占める。以前からの住民は、ごみ出しや騒音のトラブルに不満を募らせてきた。

 団地のベンチに「中国人帰れ」という落書きが見つかった2015年春。団地のイベントを手伝った経験のある学生有志が提案した。「ただ消すだけでなく、友好のシンボルにしよう」

 それまでほとんど交流のなかった日中双方の住民が「若い人がやるなら協力しよう」と動いた。約50人が集まり、ベンチにペンキを塗った。手形を装飾し、友好を象徴するアート作品に仕上げた。

 交流事業では、中国人の顔を見るや日ごろの苦情をぶつけ始めた日本人住民に、学生がすかさず「今は前向きに話しましょう」と割って入る場面もあった。自治会役員の岡崎広樹さん(35)は「大学生が緩衝材になり、関係がスムーズになった」と振り返る。

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 もちろん九州にも参考になる事例がある。

 「皆さん、今日初めて日本の学校に来た方がいます」。4月12日、福岡市西区の内浜小学校であった入学式後の保護者説明会。教員に促され、エジプトとベトナムから来た児童の両親が、保護者全員の前で「よろしくお願いします」とあいさつした。

 この自己紹介をお膳立てしたのは、日本語指導拠点校担当教員の池田芳江さん(63)。日本人は距離を置きがちだが、外国人保護者は「気軽に声を掛けてほしい」と思っていることを、過去の経験で知っていた。試みは奏功。説明会後、帰途に就く保護者の一人が、外国人の両親に話し掛けていた。

 互いの距離を縮める橋渡しの経験とノウハウが、自治体や地域で積み重なる。多文化共生社会が少しずつ近づいてくる。


=2017/05/03付 西日本新聞朝刊=

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