キノコ新品種 生き残りかけ もぎたて「王リンギ」1瓶100円 福岡「道の駅おおき」 ルーツは新疆

きのこの里で生産した(手前から)雪嶺茸、王リンギ、シメジを手にする北島良信さん
きのこの里で生産した(手前から)雪嶺茸、王リンギ、シメジを手にする北島良信さん
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新疆ウイグルにルーツがある王リンギも破格の100円
新疆ウイグルにルーツがある王リンギも破格の100円
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 棚に並んだ人工栽培用の瓶、そして生命力あふれるキノコの生えっぷりに見入った。筑後川下流域の「道の駅おおき」(福岡県大木町)にある農産物直売所の「キノコもぎ採りコーナー」。イチゴ狩りさながらに、もぎたてを味わってもらおうという趣向だ。

 白っぽい見慣れないキノコもある。「王リンギ」。約5千キロ離れた中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区にルーツがあるとは想像もつかない。

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 「一瞬、アワビかと思いましたね、口に運んだときは」。町の農事組合法人「きのこの里」の技術部長、北島良信さん(59)が18年前の中国・上海での会食を思い出す。コリコリした食感からアワビと思ったのは雪嶺茸(ゆきれいたけ)だった。新疆ウイグルに自生する。「こんなにうまいなら大木町でも栽培したい」。北島さんは日本きのこ学会の会員でもある。産地に生きる研究者としての使命感が、行動につながった。

 日本に持ち帰った雪嶺茸で、菌の培養には成功した。ところが次の発芽がうまくいかない。キノコになったり、ならなかったり。あらためて現地に足を運び、専門家に助言も求めた。

 自生地は標高3千~4千メートル。秋の涼しい環境で菌糸を伸ばした後、土の中で氷点下の冬を過ごし、春の草原に姿を見せる。その自然のサイクルに注目した。現地の環境を再現する試みに3年を費やしようやく栽培に成功。2002年には栽培技術の特許を取得した。

 11年には学会でのある研究発表をヒントに次の段階に進んだ。既に栽培していたエリンギと雪嶺茸が遺伝子的には近縁の種で、交配できるかもしれない。そうした可能性を示唆する内容だった。

 菌の培養から出荷まで計100日を要する雪嶺茸に対してエリンギは45日。雪嶺茸のおいしさそのままに生育期間の短縮に挑んだ。

 シャーレで双方の胞子から菌糸を伸ばし合流させる実験を繰り返した。交配成功までほぼ3年。両者を掛け合わせた王リンギは15年に商品化された。

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 大木はもともとコメやイグサの産地だったが、何度も水害に泣かされ、天候に左右されない作物が課題だった。国内で人工栽培が普及して間もないエノキタケに注目した先達が1973年に町で栽培を始めて、次第に広まった。

 その後、農家の共同経営も始まり、自分たち自身でキノコ類の種菌を安定的に確保しようと生産農家約60人が出資して「大木きのこ種菌研究所」を設立。ここが北島さんの実験の場ともなった。

 町の農事組合法人の先駆けとなった「きのこの里」は現在、雪嶺茸、王リンギ、それに主力のシメジを生産する。施設内は気温15度、湿度100%を維持。キノコがよく育つ木漏れ日と同じ波長の青色発光ダイオード(LED)の光が棚を埋め尽くした瓶を照らす。

 生産体制の確立や安定供給でキノコ生産は順調に見えるが、問題もある。価格設定は大型スーパーなど小売り側に主導権があり、今は「完全に採算割れ」(エノキタケ農家)の状態が続く。国内産地の競争が激化する中でどう生き残っていくかは難題だ。

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 「かつては全国に広葉樹林が広がり、山地に自生するキノコを食べる習慣があった。毒キノコもあり危険が伴う中、なぜ食べ続けられたのか。やはり体に良くておいしいから。いろんな知恵が伝承されてきたことからも、身近で貴重な食だったことが分かる」。今や中国や韓国に栽培指導に招かれる「きのこ博士」の北島さんは確信している。

 大木では多種多様なキノコが手軽に味わえる。もぎ取った王リンギの価格は何と1瓶100円。赤字覚悟の価格だが、リピーターを増やす狙いがある。

 ところで北島さん、他に王リンギを買える所は。「福岡市内の一部百貨店にはあるかな。だけど出荷先は、ほとんど道の駅おおきです。地産地消。おいしい物は地元で食べてほしいですから」


=2016/11/16付 西日本新聞朝刊=

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