旅先で便秘や下痢に…ストレスと腸内フローラの関係 腸が「第2の脳」と呼ばれるワケ

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腸内フローラ<2>

 大腸がんはよく聞くけれど、小腸がんはあまり聞かない。

 腸は口、食道、胃を通して外部とつながっている。食べ物だけでなくウイルスなどの病原体も入ってくるが、それらを識別して病原体を排除する「免疫」機能が小腸は高いからだ。

 腸にはリンパ球やマクロファージなど全身の免疫細胞の7割ほどが存在し、最大の免疫器官といわれる。多様な細菌が群れる「腸内フローラ」は、こうした免疫細胞や抗体の活性化に寄与している。

 病原体を血管に通さない、いわばバリアーの役割を果たす内壁の粘膜層にも関与する。善玉菌が食物繊維を分解して生成する短鎖脂肪酸が粘液の合成を促進しているのだ。

 大阪大大学院の研究班によると、粘膜をつくる腸の細胞と腸内細菌は相互に刺激し合い、粘膜バリアーを維持しているという。

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 腸内フローラが、心の問題に影響することも近年の研究で分かってきた。

 九州大大学院医学研究院の須藤信行教授の研究班は、狭い空間に閉じ込めたマウスを用いてストレスについて実験した。結果、体内に菌のいない無菌マウスは通常のマウスに比べて不安を示す行動が多いことを確認。それを裏付けるようにストレスホルモンの血中濃度は無菌マウスの方が高かった。

 その後、無菌マウスに腸内細菌の善玉菌の一つ、ビフィズス菌を与えると、ストレスに対する反応が鎮静化したことも確かめた。

 無菌マウスの場合は、記憶や思考をつかさどる脳の海馬や前頭葉で、神経細胞の成長に関わる物質も、通常マウスに比べて濃度が低かったという。

 須藤教授は「腸内細菌がストレス反応を抑え、脳内の神経細胞の成長にも影響を与えることを示した」と説明する。

 旅先で便秘や下痢になるとか、仕事を抱え込み腹痛を起こすといったことは、多くの人が経験する。こうした不安や緊張が腸内フローラに悪影響を及ぼす仕組みも明らかになりつつある。ストレス関連ホルモンが大腸内で放出されると、大腸菌を増殖させ、病原性を高めるという。そのメカニズムの解明に向けても研究を進める考えだ。

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 こうした心の安定に関わる脳内物質が別名「幸せホルモン」ともいわれるセロトニンだ。伝達されると不安を抑え、落ち着いたり痛みが和らいだりする。

 「セロトニンの合成にも腸内細菌が関係している」。そう語るのは免疫学が専門の東京医科歯科大名誉教授、藤田紘一郎さん。脳内のセロトニンは、腸内細菌が生成して脳に送った物質によって合成される。これに関わるビタミンも腸内細菌がつくるという。

 脳の中でセロトニンが減少すると、うつ病を発症しやすくなるとされる。「バランスのよい腸内フローラが必要」と指摘する藤田さんは「日本でうつ病が急増しているのは日本人の腸内細菌が減ってきたことが主な原因」と推測する。

 うつ病と免疫を巡って藤田さんが注目した米国の学者の学説がある。それによると、うつは感染症から身を守るため免疫システムが進化した結果だという。うつ状態にすることで社会から逃避させ、感染症患者と接触させないようにした、という考察である。

 注目したのは「この進化にも腸が関わったのでは」と考えたからだ。感染症になりやすいとされる強いストレス状態では、食欲不振や腹痛が起き、それがうつ状態を招く。腸が脳に命令する形で免疫システムが出来上がる、というわけだ。

 通常、物事を考え行動するのは脳の指令によるが、腸は意思とは関係なく独自に情報を捉え、自らを制御して動く。腸壁には細かい神経細胞が張り巡らされ、独自のネットワークを形成、他の臓器にも指令を出す。腸が「第2の脳」と呼ばれるゆえんである。

 脳と腸は互いに影響し合い「脳腸相関」と呼ばれる関係にある。バランス良く保たれた腸内フローラが心身の健康の基本となる。

=2018/03/14付 西日本新聞朝刊=

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