<29>マー油が香る唯一無二の味 好来(熊本県人吉市)

マー油は2日間かけて作る。「焦げ付かないよう、火加減を調整したり、混ぜたりと手間がかかります」と吉村毅さん
マー油は2日間かけて作る。「焦げ付かないよう、火加減を調整したり、混ぜたりと手間がかかります」と吉村毅さん
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 熊本県人吉市下青井町76。ラーメン600円。営業時間は午前11時半~午後8時。月曜定休。0966(23)3330。
熊本県人吉市下青井町76。ラーメン600円。営業時間は午前11時半~午後8時。月曜定休。0966(23)3330。
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 メニューはラーメンだけ。案内された席に座ると、注文を告げることなく目の前に丼が配膳された。ただその一杯を間近にすると思わず「おおっ」と声が漏れる。山のように盛られたモヤシ。そして真っ黒なスープ。

 「好来(ハオライ)」(熊本県人吉市)が創業したのは1958年。店主、吉村毅さん(71)の父、隆さんが始めた。その5年ほど前、隆さんは当時住んでいた熊本市で屋台の雇われ店主としてラーメン稼業に足を踏み入れる。独立後、妻の古里の人吉で屋台を出し、半年ほどで今の店と同じ場所に店舗を構えた。「いらっしゃい」という意味の店名は満州から引き揚げてきた親戚がつけてくれた。

 一方、吉村さんは中学卒業後に熊本市の製麺所に就職し、技術を身に付けた後、開店から2年遅れで父親の元に戻った。スープは父、麺は息子。人吉にラーメン店は数えるほどしかなく、人気も出た。吉村さんは「今の味と全然違いますけど」と言う。豚骨に鶏ガラ、キャベツなどを加えた“普通”の白濁スープだったそうだ。経営も順調。しかし、大きな試練が訪れた。

 「おやじが保証人になっていた借金をかぶることになってね」。約40年前のことだ。返済のために隆さんは店を手放した。吉村さんは別の仕事も考えたが、10代からラーメン一筋で「自分にはそれ以外なかった」。借金をして店を買い戻し、店主として再出発した。父親が担っていたスープ作りも引き継いだが、同じものは作らなかった。「とにかくインパクトが欲しかった」

    □   □

 モヤシやチャーシューを箸でよけ、スープをすすると焦がしたニンニクの香ばしさが広がる。さらに奥から和風だしのような風味も追いかけてくる。そして250グラムという麺の量にも驚く。博多ラーメンの並は普通100グラムちょっとなので2倍以上だ。硬めにゆでられた中太麺の食感を楽しみながら食べ進めると、あっという間に完食していた。

 製麺所時代には熊本市の老舗にも配達していた。熊本ラーメンの特徴であるニンニクを使うことは自然な流れだったのかもしれない。ただ、好来は一般的な熊本ラーメンとは全く違う。ラードとごま油でニンニクを焦がしたマー油と豚骨、鶏ガラを混ぜたスープは見た目も味も唯一無二である。「インパクトが強すぎて最初はダメという人も、3回来れば癖になりますよ」。吉村さんは不敵な笑みを浮かべた。

 個性的な味にひかれて、弟子入りを志願する人も多い。全国的に有名な「なんつッ亭」(神奈川県)、福岡市で人気の「博多新風」の店主も吉村さんに習い、巣立っていった。 (小川祥平)

=2015/12/17付 西日本新聞朝刊=

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